研究課題/領域番号 |
25870042
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
原 基揚 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00417966)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 圧電薄膜共振子 / 電極 / 薄膜 |
研究概要 |
圧電薄膜共振子(FBAR)は基板上に作製可能な薄膜のバルク波素子である。この共振子は水晶のような従来のバルク波素子と異なり、電極の影響を強く受け、その材質と膜厚によって、性能を最適化することが可能である。 従来の研究では、フィルタ素子への応用を想定し、実効的電気機械結合係数k2に着目した最適化がなされていた。しかし、本研究では、FBARを集積型のクロックデバイスへ応用することを想定し、位相ノイズの抑制を目的として、Q値の最大化を検討した。Q値はk2とトレードオフの関係があり、本研究は従来研究に新しい観点を与えるものである。 Q値を最大化にあたり、分布定数等価回路(Masonの等価回路)を用いたQ値の計算プログラムを開発した。本プログラムは電極材料の音速、音響インピーダンスおよび減衰定数をパラメータとして、電極と圧電体との膜厚比(tm/tp)とQ値との関係を自動計算するものである。Q値はk2と異なり、共振周波数と素子の容量とに大きな影響を受けるため、本プログラムでは、各計算モデルにおいて、これらが常に一定となるように全膜厚と電極面積とが調整される。これは、エレメントサイズによって制限を受ける従来の有限要素法では困難な手法である。 本プログラムにて、様々な金属材料に対して、減衰定数を変化させ、Q-tm/tp特性を計算を行った。その結果、tm/tpが大きいほどQ値が高くなる傾向が確認された。また、減衰定数には限界値が存在し、この値を超えるとQ値の増大が得られないことがわかった。そして、この限界値は金属材料によって異なり、金属材料の音速が低いほど高い値を示すことが明らかとなった。これは、低音速材料では、Q値増大の観点から許容される減衰の値が大きいことを示している。また、音響インピーダンスが高い材料では、減衰定数の変動に対するQ値の変動が小さいことが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Q値を計算するためのプログラムの高精度化と高速化とを行った結果、体系的に多くの金属材料に対して、Q値の比較評価が可能となった。当初計画では、電極材料と圧電体との音響インピーダンスのマッチングが重要と仮定していたが、先に述べたプログラムの更新によって、音速がQ値増大のキーパラメータとなることが明らかとなり。当初検討していた銅電極に対して、さらなるQ値の増大を得る見込みを得た。
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今後の研究の推進方策 |
当初、計画していたAlN圧電薄膜の最適条件の探索に関しては、低応力にて高配向の膜を得られることが実験的に確認されており(他の研究にて適用、実証済)、今後、FBARの試作による実験的な検証をすすめる。 先の計算において、低音速材料(例えばIn, Pb, Ag)の有効性を示したが、もう一点、高音響インピーダンス材料(Pt, Mo)の有効性も明らかとなっており、実験では、これらの比較を行う。 発信器の設計技術に関しては本年度中に確立(他の研究にて適用、実証済み)しており、試作の進捗に応じて、発信器の試作も行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度では、独自プログラムの高精度化・高速化を主として実施した。プログラムは、フリーソフトを利用したため、設備費が発生しなかった。 また、AlNの最適化において、本年度中のターゲット交換は別プロジェクトにて充当したため消耗品費の発生は抑制された。(ただし、次年度において、購入は不可避と考える。) 以上の理由により、次年度への予算の繰り越しとなった。 本年度に購入を検討していた設備の購入を進める。 AlNの成膜にかかる消耗品に関しては、すでに交換の必要があるため、次年度において早急に経常する予定である。
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