積層半導体チップ間のデジタル情報の無線伝送に利用可能な10GHz~100GHzの帯域における新規の磁気アンテナの開発を目的としてコプレーナ線路(CPW)上の磁性体の強磁性共鳴(FMR)現象について実験研究を行った。磁気アンテナのマイクロ波の放射強度を増強させるためには放射アンテナに磁性体を付与することで比透磁率を増大させられると考えられ、アンテナデバイス内部でのFMRを制御する必要がある。この実験状況はブロードバンドFMRとしてよく知られる実験方法である。しかしながら、実験条件によって強磁性共鳴線幅が異なっていたり、共鳴信号の位相が複雑となって観測されるなど十分理解されていない。本研究は線路幅、薄膜矩形磁性体(FeCo)のサイズ・位置の異なる試料においてネットワークアナライザーを用いてFMRスペクトルの現れ方の違いを調べた。CPWは長さ1000μm・信号線幅は10、20μmである。2段階のリソグラフィーとエッチングによって約300nm厚さのquarts/Cu/Ta/FeCo膜を非磁性CPWと磁性体矩形パターンに加工した。測定はS11の磁場による変化分から磁性体に起因する信号を分離した。 実験の結果、信号線路のエッジ部分に変位電流が集中しており、その部分に磁性体を配することで大きなFMR強度が得られ、1μm程度エッジから離れることで速やかに信号強度が減衰し半分以下になることが分かった。また線路方向に試料サイズを伸ばすことで信号を試料長さに比例して増大させることができることが分かった。また信号線幅に反比例してFMR信号は増大した。これらの知見から30mVの大きなFMRによる信号変化が得られる線路を実現できた。また、この試料を貼り合わせS21測定を行い、若干の信号変化を検出することができた。 この結果は新しいコンセプトのマイクロ磁気アンテナを実現するうえで重要な知見となった。
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