研究課題
本研究の具体的な研究項目は1.局所的な遺伝子発現の誘導を利用して効率的なTg(遺伝子組換え)個体の選別法を確立する、2.IR-LEGOなどの手法を用いて位置特異的な遺伝子発現の誘導技術を確立する、3.確立した遺伝子操作の技術を駆使して成体ゼノパス(アフリカツメガエル)の四肢再生能を回復させる、の3つである。1.の効率的なTg個体の選別法の確立については、赤外レーザーによって局所的に遺伝子発現を誘導するIR-LEGOの利用により、作製したTg個体の最初の世代(F0)において遺伝子が導入された個体を効率よく選別することを目指した。しかし前年度に選別に適さないことが分かった尾に代えて、肢芽の領域にレーザーを照射しても最適なTg個体の選別は困難であることが分かった。一方で2.の位置特異的な遺伝子発現の誘導技術の確立については、サンプルが透明で個々の細胞を識別しやすい再生中の尾を標的にして、IR-LEGOによってsingle cellレベルでの発現誘導に成功した。さらに鳥取大学医学部の林利憲氏らと共同で、IR-LEGOによる遺伝子発現の誘導はゼノパスだけでなく、有尾両生類のイベリアトゲイモリでも行えることを確認した。また温冷負荷装置を利用して発生中の肢芽全体や肢芽の一部の領域のみに遺伝子発現を誘導できることを明らかにした。3.の成体ゼノパスの四肢再生能の回復はまだ達成できていないが、幼生期に発生中の肢芽に対して温冷負荷装置を用いて局所的に遺伝子発現を誘導することで、個体の中で左右の肢芽の片方の成長だけを阻害したり、四肢の形態形成を変化させることに成功した。
2: おおむね順調に進展している
3つの研究項目のうち1.の効率的なTg個体の選別法の確立、についてはIR-LEGOによって理想的なTg個体を簡便に効率よく選別することが困難なことが分かってきた。したがってこの項目については研究計画の変更が必要だと考えている。2.の位置特異的な遺伝子発現の誘導技術の確立については、IR-LEGOを利用することで再生中の尾においてsingle cellレベルでの発現誘導に成功した。これによって尾の再生において特定の分子(Hippoシグナル経路のTead4)がcell autonomusに細胞の生存や増殖に関与することを示し、論文として発表した(Hayashi et al., 2014)。また発生中の肢芽においても非常に正確な位置に遺伝子発現を誘導できることを示し、ゼノパスだけでなくイベリアトゲイモリにもIR-LEGOが適用可能なこととあわせて、その成果を査読のある国際誌に投稿して現在リバイズ中である。3.の成体ゼノパスの四肢再生能の回復についても、その前段階として発生における四肢の形態形成を変化させることに成功している。以上のように、計画通りに進まない研究項目が一部あったものの、全般としては位置特異的な遺伝子発現の操作や四肢の形態形成の人為的な操作については順調に成果を得られているので、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
「現在までの達成度」で述べたように、IR-LEGOによる理想的なTg個体の選別は困難であることが分かった。したがって、むしろ理想的なTg個体の系統を確立した後に、IR-LEGOを利用した遺伝子発現の誘導実験を行うことに専念した方が現実的だと思われる。幸い、本研究課題で残りの項目を遂行するのに必要なTg個体については既に理想的な系統が得られつつある。位置特異的な遺伝子発現の誘導技術の確立については順調に目的を達成できているので、これまで行ってきた熱ショックプロモーターによる一過的な遺伝子発現の誘導だけでなく、Cre-loxPのシステムを利用して恒久的な遺伝子発現の誘導および細胞の標識についても今後は実験条件の検討を行う。また成体ゼノパスの四肢再生能の回復を図る実験については、幼生で現在行っている肢芽での局所的な遺伝子発現の操作とそれによる四肢の形態形成への影響を十分に分析した上で、そのデータを基礎にて今後本格的に着手する。幼生での実験で確立した理想的なTg個体の系統を利用して、成体ゼノパスの再生芽における遺伝子発現を局所的に操作することで、より完全な形態を持つ四肢を再生させる実験を行う予定である。
次年度使用額は今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額である。
未使用額は平成27年度請求額とあわせ、平成27年度の研究遂行に使用する予定である。
記載した2件の学会発表については、どちらも研究代表者本人が発表を行った。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (2件) 備考 (1件)
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http://nature.cc.hirosaki-u.ac.jp/public/hitoshi-yokoyama/