研究課題/領域番号 |
25870059
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
室崎 喬之 東北大学, 原子分子材料科学高等研究機構, 助手 (40551693)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 海洋工学 / 高分子構造・物性 / 自己組織化 / 付着生物 / 防汚技術 |
研究概要 |
本研究の目的は海洋付着生物(フジツボ等)による汚損被害を防ぐ為、新規の表面微細構造による防汚材料を開発する事である。 本年度はどのような表面微細構造が防汚効果に優れるのか調べる為、水滴を鋳型として自己組織化的に形成されるハニカム状多孔質膜とそれをベースに形成される延伸ハニカムフィルム、ピラーフィルム、マイクロレンズアレイフィルムを作製し、それぞれに対する対するフジツボ付着期幼生(キプリス幼生)の着生挙動について調べた。 平滑面と比較した場合の各微細構造上における着生実験の結果を以下に示す。ハニカム構造の場合、ハニカムの孔径(5μm~20μm)が増加するに従って着生率が減少する傾向が見られ、防汚効果が示された。一方、延伸ハニカム構造の場合には延伸率が増大するに従って付着が増加した。また、ピラー構造、マイクロレンズアレイ構造の場合にはそのサイズに関わりなく着生率が平滑面の場合と差がなく防汚効果は認められなかった。防汚効果にはキプリス幼生の付着器官サイズ(約 25 μm )が大きく関係していると考えられる。ハニカム構造は、二次元的に穴が配列したフィルム上層が柱によって支えられた立体的な構造となっている。他の構造の場合には二層構造を持たないか小さくなっている。従って、表面微細構造による防汚効果には、構造の高さが関係する可能性がある。 以上の結果より、自己組織化ハニカム状多孔質膜にはフジツボキプリス幼生に対し防汚性があることが明らかとなった。またフジツボの付着期幼生の付着を微細構造でコントロールできる可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目標は防汚効果に優れた表面微細構造の形状・サイズの探索であり、スクリーニング的に着生実験を行った。本年度は自己組織化ハニカムフィルムとそれをベースに簡便な二次加工で作製される延伸ハニカムフィルム、ピラーフィルム、マイクロレンズアレイフィルムの4種類を着生実験基板に用いた。フジツボキプリス幼生は表面微細構造の違いよってそれぞれ特徴的な着生挙動を示し、海洋付着生物の付着を微細構造によってコントロールできる可能性を示した。また用いた微細構造基板の中で最も作製が簡便なハニカム構造が最も優れた防汚効果を示した。またハニカムの場合には孔径サイズに依存して着生率が減少する事から形状の他にもサイズが防汚材料設計に重要である事が示唆された。延伸ハニカムの場合には延伸率が増大するほどハニカムの持つ二層構造の高さが減少する。このことから孔径だけではなく高さも重要なパラメーターではないかと考えられる。以上の結果から本年度の目標である防汚効果に優れた表面微細構造の形状・サイズの探索に対する研究はおおむね順調に進展したと考える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果からハニカム状微細構造にはフジツボに対する防汚効果がある事が見出された。しかし、なぜハニカム構造表面では付着が少ないのか詳しいメカニズムはよく分からない。フジツボキプリス幼生は着生の前段階として基板上を二本の感覚器官を用い、歩行のような「探索行動」を繰り返し行う事が知られている。この探索行動はその後の着生と大きな関係性が示唆されている。このキプリス幼生の探索行動に着目し、各種微細構造表面上でのキプリス幼生の探索行動を画像解析ソフトを用いて動態追跡解析を行い、特にハニカム構造の防汚メカニズムについて詳しく調べる。 また、これまでの知見よりハイドロゲルやシリコーンラバー等の低弾性素材ではフジツボの着生が少ない事がわかっている。今年度は主に硬いポリスチレンを用いて着生実験を行ってきた。来年度は弾性率や表面エネルギーなどの物理的パラメータにも着目し、異なる材質の微細構造表面における着生実験を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初予定していたよりも物品費の支出が少なく抑える事が出来た為。 東北大学から千歳科学技術大学に異動したのでガラス器具等を新たに取り揃える必要がある。また海外での国際学会発表を予定しているので旅費を前年度よりも多めに使用する。
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