本研究は、MHCクラスI認識免疫制御受容体PIRと新規リガンド群Nogo/MAG/OMgpによる細胞傷害性T細胞(CTL)制御機構を解明し、がんおよび移植の新規治療法の開発を試みることが目的である。 前年度では、細胞傷害機能に重要となるパーフォリンやグランザイムなどのタンパク質の膜輸送機構に着目し、細胞膜表面での機能のみが明らかとなっていた免疫制御受容体PIR-Bが、リソソーム様小胞に局在することを見出した。また、細胞飢餓状態によりPIR-Bが後期リソソーム小胞に輸送されたことを示唆するデータが得られたことから、外的または内的な細胞刺激によりPIR-Bが膜輸送経路に沿って動き、細胞機能の調節に関わるものと考えられた。 本年度では、PIR-Bの膜輸送機構とシグナル伝達との関係を明らかにするために、PIR-Bのシグナル伝達に重要な細胞内ドメインの4つのチロシン残基のフェニルアラニン置換変異体を作成し、細胞内動態の解析を行った。その結果、4つのチロシン残基のうち、それぞれの単独変異体では細胞内局在に異常は見られなかったものの、4つ全てを変異させたものではリソソーム小胞局在が消失していた。すなわち、4つのチロシン残基のうち少なくとも2つ以上のチロシン残基がPIR-Bの細胞内輸送に重要であることが判明した。また、PIR-BのリガンドであるNogoの関連分子にコレステロール輸送調節を担う分子があることから、PIR-B欠損細胞のコレステロール輸送異常を解析したところ、PIR-B欠損細胞ではコレステロールの細胞内蓄積が野生型細胞に比べて減弱していた。以上の結果より、PIR-Bはチロシン残基を介して細胞内膜輸送、特にコレステロール輸送経路の調節を担っていると予想される。 今後、PIR-BのリガンドであるNogoとの動的相互的な膜輸送システムを明らかにすることで、新たなCTL活性調節システムの解明につながると考えている。
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