Cu基板上に合成したグラフェンを低ダメージでCu基板から剥離する手法として、Cu基板を酸化させて酸化膜のみをエッチングする「酸化膜剥離法」の開発を行った。本研究を通じて得られた結果は以下の通りである。 1) グラフェンの耐酸化性能の確認と水蒸気を用いたCu酸化法の開発:乾燥O2分子を用いた基板酸化において、Cu基板と比較してグラフェン/Cu基板の表面酸化速度は著しく低下した。これはグラフェンがO2分子の拡散バリアとして働き、Cu基板へO2分子が供給できないことに起因すると考えられる。Cu基板の高速酸化のために、グラフェン/Cu基板を酸化させる手法としてO2分子ではなくH2Oを酸化種として用いることを提案した。グラフェン/Cu基板を高湿度大気中に曝露することによって、グラフェン/Cu界面にCu2O膜を形成することに成功した。このことはグラフェンがO2分子のバリア性能は持つが、H2Oに対してはバリア性能を持たないことを示している。 2) Cu2O膜の炭素原子拡散阻止能の発見:グラフェン/Cu2O/Cu基板を真空中で加熱し、グラフェン膜厚とCu中の炭素濃度を調べた結果、Cu2O膜は炭素原子の拡散阻止能を持つことを発見した。これにより、Cu基板を事前に酸化させておくことにより、化学気相堆積法によるグラフェン成長中にC原子がCu基板中へ拡散することを防ぐことができる。その結果、高品質なグラフェン成長につながると考えられる。
|