回転する球周りの流れにおいてマグヌス力が発生することはよく知られているが,特定のレイノルズ数領域において,通常のマグヌス力とは逆向きに力が発生する負のマグヌス力の存在はあまり知られていない.球技においては,ボールに回転を与えることによって様々な変化をさせることで試合を面白くしている.このような負のマグヌス力の存在は,新たなる球種の可能性を導く.物理的には,この現象は球表面の境界層遷移と密接な関係にあると考えられているが,その詳細は不明な点も多い.本研究においては,この負のマグヌス力の発生を風洞試験と飛翔試験を通じて実験的に解明を試みた. 初年度には,風洞試験により力計測および可視化を行い負のマグヌス力が発生する領域を特定した.この発生領域は,卓球におけるスマッシュの初速領域を含んでおり,卓球の試合において同現象が起こる可能性が示唆された. 次年度は,実際に卓球ボールを射出する2ローター式のマシンを作成し,飛翔経路と風洞試験から得られている揚力・抗力から求まる軌跡を比較することによって飛翔中の球において同現象が見られるか確認を行った.この結果,飛翔中の球においては風洞試験よりも高いレイノルズ数において同現象が確認された. 本年度は,より高精度に飛翔中の揚力を確認するために,昨年度作成した卓球ボールマシンを用いて飛翔中の球周りの流れ場を時系列PIVを用いて計測した.飛翔中の球は撮影した画像内で移動するため座標変換し球を固定した座標系にてPIV解析をおこなった.この結果,風洞試験において負のマグヌス力が発生すると予測される回転数よりも若干高い回転数において対称な後流速度分布が計測されほぼ揚力がゼロの状態となっていることがわかった.この前後の回転数ではマグヌス力は正の方向に発生しており,飛翔中の球においても負のマグヌス力がある特定の領域において表れることがわかった.
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