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2013 年度 実施状況報告書

超高表面積炭素と有機金属錯体のナノ複合化による巨大電気容量キャパシタの開発

研究課題

研究課題/領域番号 25870066
研究種目

若手研究(B)

研究機関愛知工業大学

研究代表者

糸井 弘行  愛知工業大学, 工学部, 講師 (40648789)

研究期間 (年度) 2013-04-01 – 2015-03-31
キーワード電気化学キャパシタ / スーパーキャパシタ / 電気二重層キャパシタ / 有機金属錯体 / ゼオライト鋳型炭素 / 疑似容量
研究概要

本研究では、炭素材料の中で世界最大の電気化学キャパシタ容量を示すゼオライト鋳型炭素に可逆的に酸化還元反応を示す有機金属錯体を蒸着法により複合化することで、酸化還元反応由来の疑似容量による電気化学キャパシタ容量の増加を検討した。蒸着法とは、ゼオライト鋳型炭素と有機金属錯体を減圧した密閉容器内で加熱することで、揮発した錯体を表面積が約4000 m2/gの多孔性のゼオライト鋳型炭素に吸着させる方法である。この蒸着法は溶媒が必要ない、仕込みの錯体全てが複合化される、炭素材料と錯体の重量比を正確に制御できる、さらに溶媒を用いないために複合化される錯体の担持量を大幅に増加させることができる点において、活性炭などの多孔性の炭素材料に化合物を複合化させる際の一般的な方法である溶媒を用いた液相吸着法や蒸着乾固法よりも優れた方法である。
初年度は有機金属錯体として可逆的に1電子酸化還元反応を示すフェロセンをいくつかの重量比でゼオライト鋳型炭素と複合化させ、得られた試料の分析と電気化学測定評価を行った。フェロセンは本来、500度付近まで加熱してようやく分解するほど安定な錯体であるが、本研究ではゼオライト鋳型炭素に担持したフェロセンが25度という温和な電気化学測定条件において分解されやすいことが分かった。通常の電気化学測定条件下でゼオライト鋳型炭素は電気化学的に容易に酸化され、酸化還元反応を示すキノン基が大量に導入されるためにゼオライト鋳型炭素は極めて大きな疑似容量を示す。したがってフェロセンの分解とゼオライト鋳型炭素の酸化との関係を調べるために、酸化され難い多孔質炭素を用いて同様の実験を行った。しかしながら、酸化されにくい多孔質炭素を用いてもフェロセンは分解することが明らかになり、フェロセンの分解を防ぐために電気吸引性や電子供与性の官能基を備えたフェロセン誘導体を用いる必要があることが示唆された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

ゼオライト鋳型炭素と複合化されたフェロセンは25度の電気化学測定条件でも1M 硫酸電解液中で測定電位が+0.4 V(vs. Ag/AgCl)を超えると徐々に分解し、酸化還元反応由来の容量の増加効果が低下した。ゼオライト鋳型炭素の電気化学キャパシタ容量は測定電位範囲が-0.1~+0.4 Vにおいては270F/g、-0.1~+0.8Vにおいては511F/gである。この容量の増加はゼオライト鋳型炭素が+0.4V以上で電気化学的に容易に酸化されることで、酸化還元反応を示すキノン基が大量にゼオライト鋳型炭素に導入され、キノンの酸化還元反応に由来する疑似容量が上乗せされるためである。フェロセンと複合化したゼオライト鋳型炭素を1M硫酸電解液中で定電流充放電測定を行ったところ、フェロセン担持量が10wt%では329 F/g、30wt%では308 F/gであった。一方、電解液に1M KCl水溶液を用いて測定したところ、フェロセンの担持量が30wt%では353 F/gという30%もの容量の増加を示した。したがって電解液の種類によって異なる疑似容量を示すことが分かる。このフェロセンの酸化還元反応はサイクリックボルタンメトリー測定で+0.4V付近にフェロセンの酸化還元反応に由来するピークを示すことで確認できる。しかしながら電位範囲が+0.4Vを超えるとフェロセンの分解によって容量が低下することが分かった。
+0.4Vはゼオライト鋳型炭素が酸化され始める電位であり、ゼオライト鋳型炭素の酸化とフェロセンの分解との関係を明らかにするために酸化され難い多孔性のカーボンブラックを用いて様々な水系電解液を用いて測定を行ったところ、全ての電解液において酸化される電位に多少の差は見られたものの、フェロセンの分解による容量の低下を確認した。したがって、多くの電解液中でフェロセンが電気化学的に分解しやすいことが分かる。

今後の研究の推進方策

フェロセンは酸化されにくい多孔質炭素に担持しても、検討した全ての水系電解液において+0.4V(vs. Ag/AgCl)を超える電位範囲で分解するため、ゼオライト鋳型炭素の酸化はフェロセンの分解と関係ないことが分かった。これは本研究を遂行する上では極めて重要であり、ゼオライト鋳型炭素の極めて大きな疑似容量の利用が可能であることを示す。更にサイクリックボルタンメトリーによる測定では、最初のサイクルにおいては1000 F/gを超える容量を示すことが分かっている。この高い容量は全電位範囲で示す訳ではなく酸化還元反応に起因するピークの最大値によるものであるが、それでも全電位範囲で平均値をとったとしてもフェロセンの酸化還元反応は大幅なキャパシタ容量の増加効果をもたらすことが可能である。しかし問題はフェロセンの分解であり、これを防ぐ方法として電気化学測定によるフェロセンの分解を抑える電子供与性あるいは電気吸引性のフェロセン誘導体を用いることで、容量の巨大化が期待できる。フェロセン誘導体は多くの種類が安価に市販されているため、ブロモフェロセンやアセチルフェロセンなどの電子吸引性の官能基を有するフェロセン誘導体や、デカメチルフェロセンなどの電子供与性の官能基を示すフェロセン誘導体の検討を行う。また、1電子酸化還元反応を示すフェロセンよりも高い容量増加効果を示すと期待される、2電子酸化還元反応を行うルテノセンにおいても検討を行う。ルテノセンの2電子酸化還元反応は酸化されたルテノセン分子の不均化反応によって不可逆であるが、広大な表面積を有するゼオライト鋳型炭素に高分散させることによって分子同士の距離を大きくして不均化反応を抑制することで、可逆的に2電子酸化還元反応を行うことが期待できる。

次年度の研究費の使用計画

次年度使用額は729円と少額であり、ほぼ全ての額を計画通りに使用した。
次年度は実験に必要な試薬やガスなどの消耗品をはじめとし、研究の遂行に必要な恒温槽や真空ポンプ、電子天秤などの備品の購入や学会参加費と旅費に使用予定である。

  • 研究成果

    (9件)

すべて 2014 2013

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件) 産業財産権 (2件)

  • [雑誌論文] Large Pseudocapacitance in Quinone-Functionalized Zeolite-Templated Carbon2013

    • 著者名/発表者名
      Hiroyuki Itoi, Hirotomo Nishihara, Takafumi Ishii, Khanin Nueangnoraj, Raúl Berenguer-Betrián, and Takashi Kyotani
    • 雑誌名

      Bulletin of the Chemical Society of Japan

      巻: 87 ページ: 250-257

    • DOI

      10.1246/bcsj.20130292

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Reversible Pore Size Control of Elastic Microporous Material by Mechanical Force2013

    • 著者名/発表者名
      Masashi Ito, Hirotomo Nishihara, Kentaro Yamamoto, Hiroyuki Itoi, Hideki Tanaka, Akira Maki, Minoru T. Miyahara, Seung Jae Yang, Chong Rae Park, Takashi Kyotani
    • 雑誌名

      Chemistry - A European Journal

      巻: 19 ページ: 13009-13016

    • DOI

      10.1002/chem.201390153

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Formation of Crosslinked-Fullerene-Like Framework as Negative Replica of Zeolite Y2013

    • 著者名/発表者名
      Khanin Nueangnoraj, Hirotomo Nishihara, Katsuaki Imai, Hiroyuki Itoi, Takafumi Ishii, Manabu Kiguchi, Yohei Sato, Masami Terauchi, Takashi Kyotani
    • 雑誌名

      Carbon

      巻: 62 ページ: 455-464

    • DOI

      10.1016/j.carbon.2013.06.033

    • 査読あり
  • [学会発表] メタロセンを前駆体とした金属ナノクラスター担持ゼオライト鋳型炭素の水素吸着挙動2014

    • 著者名/発表者名
      大嶽文秀、西原洋知、糸井弘行、伊藤仁、京谷隆
    • 学会等名
      日本化学会第94春期年会
    • 発表場所
      名古屋大学 東山キャンパス
    • 年月日
      20140327-20140330
  • [学会発表] 多孔質炭素材料への金属クラスターの高分散化2014

    • 著者名/発表者名
      糸井弘行
    • 学会等名
      先端炭素材料セミナー
    • 発表場所
      東北大学多元物質科学研究所
    • 年月日
      20140320-20140320
    • 招待講演
  • [学会発表] Experimental and Theoretical Analyses of the Framework of Zeolite- Templated Carbon2013

    • 著者名/発表者名
      西原洋知、藤本宏之、糸井弘行、ヌーアンノラド・カニン、田中秀樹、真木晶、宮原稔、京谷隆
    • 学会等名
      第40回炭素材料学会年会
    • 発表場所
      京都教育文化センター
    • 年月日
      20131203-20131205
  • [学会発表] Large Pseudocapacitance Induced by Redox Reactions on Microporous Carbon in Organic Electrolyte2013

    • 著者名/発表者名
      Hirotomo Nishihara、Khanin Nueangnoraj, Raul Berenguer Betrian, Hiroyuki Itoi, Masashi Ito, and Takashi Kyotani
    • 学会等名
      CARBON2013
    • 発表場所
      Copacabana, Rio de janeiro, Brazil
    • 年月日
      20130714-20130719
  • [産業財産権] 金属担持炭素材料およびこれを用いた水素吸蔵材料2013

    • 発明者名
      伊藤仁,糸井弘行,西原洋知,京谷隆
    • 権利者名
      伊藤仁,糸井弘行,西原洋知,京谷隆
    • 産業財産権種類
      特許
    • 産業財産権番号
      特許公開2013-173622
    • 出願年月日
      2013-09-05
  • [産業財産権] 金属担持炭素材料およびその製造方法2013

    • 発明者名
      伊藤仁,糸井弘行,西原洋知,京谷隆
    • 権利者名
      伊藤仁,糸井弘行,西原洋知,京谷隆
    • 産業財産権種類
      特許
    • 産業財産権番号
      特許公開2013-173623
    • 出願年月日
      2013-09-05

URL: 

公開日: 2015-05-28  

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