研究課題/領域番号 |
25870068
|
研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
山口 未花子 岐阜大学, 地域科学部, 助教 (60507151)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 動物と人間 / 贈与分配 / カナダ先住民 / 展示実践 / 西表島の狩猟 / 被災地の生業 |
研究実績の概要 |
優先課題であるカナダ先住民カスカの古老を中心とした狩猟及び贈与についての参与観察を実施した。この中で、古老が深刻な病気になった際に、コミュニティ内で活発に贈与が起きることが観察されるなど、重要な知見が得られた。また、この中で動物、とくにヘラジカの重要性が改めて確認された。 西表島におけるイノシシ猟調査では、罠をかける際にイノシシの気持ちを読み取るポイントを教わるなど、動物との相互交渉を絶えず行いながら猟を行っていることが明らかになった。また、分配についてもデータが得られた。さらに、捕鯨者を輩出する宮城県石巻市の被災地における生業についての調査を通じて、いまだに漁場や港が復旧していない中で、地域の人間同士の助け合いが震災前よりも広い範囲で行われるようになり、個人経営者や高齢者などの弱い立場にある漁業者が操業することを可能にしていることが明らかになった。この中で、日常的に行われている海産物の交換が人間関係の構築に大きな役割を果たしていることが示唆された。現在これらの成果をより深く考察するため、特に動物の捕獲および贈与交換に関する部分を抽出した表を作成している。 さらに、研究成果を広く発信するため、東京のスペースキチムにおいて市民を対象とした展示『ヘラジカの贈り物』及び映画監督・写真家の本橋成一氏との対談「動物を殺してたべること」を実施した。展示制作は岐阜大学の学生や企業のデザイナーとの協働によって実施し、教育や社会連携という点でも成果があった。来場者アンケートから、日本ではあまり知られていないカスカ文化や、初源的な形での動物との関わりへの高い関心が伺えた。 また国際会議JASCA 50th Anniversary Conference + IUAES Inter-Congress 2014への出席をして最新の知見を得るとともに研究成果を反映させる形で共著および共編著を出版した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していたフィールド調査に関しては、カナダ、および日本国内の沖縄県西表島、宮城県石巻市の牡鹿半島において予定通り実施することが出来た。特に、カナダの先住民カスカの古老を対象とした調査からは、偶然に古老が病気になったことにより、薬草の利用法や病気によいとされる薬草や野生動物の肉の贈与といった点で貴重なデータが得られた。また、フィールド調査から得られたデータの中から特に本課題における重要項目である動物との交渉(狩猟や夢など)と交渉の結果得られた資源としての動物遺骸の贈与や分配についての表を作成することで、さらに研究を進める体制が整えられた。一方で、動物との相互関係という部分で、観察やデータの分析だけではどうしても心の動きがどのように行動に反映されるかという点の把握が困難であるという問題点も浮かび上がった。 また、国際会議JASCA 50th Anniversary Conference + IUAES Inter-Congress 2014に出席し、捕鯨や狩猟に関するセッションで最新の知見を得るとともに、議論のなかで自分の研究を位置付けることができた。またこれらの研究成果は随時出版物や展示といった形にし、社会への発信という点にも配慮した。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は、優先課題としてフィールド調査から得られたデータの中から動物との交渉(狩猟や夢など)と交渉の結果得られた資源としての動物遺骸の贈与や分配についてと交渉の結果得られた資源としての動物遺骸の贈与や分配について、儀礼の有無や、空間分布、社会関係といった項目に分類したうえで表にするという作業を行うことで、詳細な分析と比較を行う。また、補足的なフィールド調査を実施する。 また、前年度までの研究において浮かび上がった、観察やデータの分析だけではどうしても心の動きがどのように行動に反映されるかという点の把握が困難であるという問題点について、11月以降の猟期には代表者自身が狩猟を実践することでこれまでのデータを実証することを試みる。これに関しては、すでに拠点となる地域で空き家の整備などを進めるとともに、狩猟免許も習得しており、体制は整っている。 さらに、5月にはJSAC 2015 Conference in Tokyo (in conjunction with JACS and JCIRN)においてセッションIndigenous Peoples in Japan & Canadaにおける発表を、8月には2015年度ASLE-Japan/文学・環境学会全国大会での発表を予定している。ここでの議論を通じて自分の研究を客観的に捉えなおし、研究成果を発展させる筋道をつける。また成果の出版も予定している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
金額が7,327円と小額であったため、旅費などに使用することができなかった。また、12月までの段階で、資金を必要とする調査研究は一通り終了していたことから、無理に用途を作るよりは、次年度以降の研究計画に沿って有効に利用すべきであると考えたため。
|
次年度使用額の使用計画 |
7,327円を次年度の予算に繰越し、旅費などの不足分に充填することで、研究計画をより円滑に進める。
|