研究課題/領域番号 |
25870068
|
研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
山口 未花子 岐阜大学, 地域科学部, 助教 (60507151)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 狩猟 / 人と動物 / 比較文化 |
研究実績の概要 |
2016年度は妊娠、出産のため当該年度に予定していたフィールド調査は実施できなかった。 ただし、日本国内において狩猟実践を行うことで、これまでのフィールド調査で得られた知見を経験的に理解することが可能になった。特にこの経験を通じて動物を殺すことと、そこで生じる感情に関して、動物の反応も踏まえたプロセスを把握することができた。
こうして得られた知見を用い、動物を殺すこととこれによって生じる心の動きについて、カナダ先住民カスカと日本とを比較しながら検討し、殺しに伴う感情が動物とのかかわり方に依存する傾向があることを指摘した論文「狩猟と儀礼 ― 動物殺しに見るカナダ先住民カスカの動物観」が、『動物殺しの民族誌』(奥野・シンジルト編)に収められた。また、カナダ先住民カスカのデータの一部を「カスカの古老と絵を描く人類学者:北米先住民の狩猟実践や動物認識調査におけるフィールドノートの役割」としてまとめたものが、『フィールドノート古今東西:FENICS 100万人のフィールドワーカーシリーズ13』(椎野若菜・丹羽朋子・梶丸岳編)に収められた。さらに、カスカと動物の関係についてまとめた「 環境と生活 ~文化はなぜ多様なのか?~」というタイトルで『新版 文化人類学のレッスン』(梅屋潔・シンジルト編)に収められた。
またこのほかにも共同研究への出席を通じてモノ研究を通じた動物資源へのアプローチという新しい視座を獲得したほか、関連文献の渉猟、これまでに収集した資料のまとめや検討を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2016年度は妊娠、出産のためほとんど調査研究が進まなかった。ただし資料の整理や文献の検討を行うなど、調査以外にできる範囲での研究を進めた。これによって得られた成果として、動物殺しに関する感情と狩猟活動の関係についてまとめた論文の出版など、可能な範囲で研究課題を進める努力をした。また、関連する共同研究にもできる限り参加し、モノ研究などの立場から成果を再検討することができた。 また、研究機関を一年延ばしたため、研究全体での遅れは挽回できると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度予定していたフィールド調査として、カナダ先住民カスカの古老における動物資源利用の聞き取り調査を実施し、動物観の形成における動物とのかかわりについてのデータを収集する。また、西表島のイノシシ猟調査にかんしても補足的なフィールド調査を実施し、猟師の一年を通じた自然資源利用の中でイノシシ狩猟を位置づけ、地域コミュニティにおける役割を明らかにする。岐阜県ないでの狩猟実践については引き続き罠猟におけるこれまでの知見を経験的に実証するとともに、銃による狩猟に関する実証も行う予定である。 また、フィールド調査を通じて得られたデータのうちでまだ検討が進んでいない加工・流通に関する部分についてまとめ、地域ごとの特徴を明確にしたうえで地域間の比較を行い、動物資源の利用の側面から本研究課題を再検討する。
今年度は本研究の最終年度でもあることから各地域で得られた狩猟・利用・贈与といった動物資源の流れと、それに伴って生じる心の動きの全体像について、地域比較する必要がある。これらの成果はカナダ学会での発表や、著書の出版を通じて公表する予定である。また、一般市民向けの講座やワークショップを通じた成果の還元についてもできる限り実現する。
本研究課題を通じて明らかになりつつある、動物との関係が動物資源の利用あり方に大きく影響を与えるという点は、調査者が経験的に学ぶことを通じて観察する「経験的観察法」によって深く理解することが可能になる。今後は、この方法論を用いてデータの検証を行う必要がある。また、本研究の今後の展開としては、、モノを媒介とした動物との関係を文化として高度に構築してきた北西海岸諸民族とカスカを比較することで、資源のモノ性と人格の付与に関する理解をさらに深めることができると考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
妊娠・出産により休みを取っていたために予定されていた調査が実施できなかった。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度に予定していた調査を実施するために使用する。
|