研究課題/領域番号 |
25870071
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐藤 大希 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 非常勤講師 (90407479)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | Nrf2-Keap1 / 肺上皮細胞分化 |
研究概要 |
研究目的:抗酸化ストレス作用を司る転写因子Nrf2の肺胞上皮細胞分化における生理的な役割を明らかにし、Nrf2活性化剤を用いて効率的な肺再生を目指す。 ①Nrf2が直接制御する肺発生関連遺伝子の探索 1.Nrf2野生型と欠損マウスに肺発癌剤であるウレタンを投与した後、形成される肺腫瘍結節からRNAを抽出し網羅的遺伝子解析を行った。これらの解析からNrf2が肺再生遺伝子を一律に誘導することを明らかにし、Cancer Research誌に報告した。この現象がNrf2による直接の制御か間接の制御かを検討するために、Nrf2過剰発現マウスに生じた腫瘍組織に対しても同様に網羅的遺伝子解析を行った。この実験に先立ちNrf2過剰発現マウスの腫瘍でも同様に肺発生遺伝子が上昇していることをRT-PCRで確認した。また、腫瘍組織(Kras変異存在下)でNrf2の効果が増強し肺再生遺伝子が更に活性化している可能性も考慮し、アデノウィルスを鼻腔から投与しKras変異を誘導するマウスモデルを用いた実験系を確立した。 ②iPS細胞からの肺胞上皮細胞分化におけるNrf2の機能解析 1.赤色蛍光を有するiPS細胞の作製:野生型マウスに全身性に赤色蛍光を呈するRosa26;td-Tomatoマウスを交配し、胎児線維芽細胞を得ることができた。現在山中4因子をウィルスベクターを用いて遺伝子導入し、生体内でiPS細胞由来の肺上皮細胞を追跡することが可能なiPS;td-Tomato細胞を作製中である。 2.マウスES細胞の肺胞上皮細胞への分化をin vitroで解析:iPS細胞を作製中の為、まずES細胞から肺胞上皮細胞への段階的な分化誘導実験を試みた。肺胞上皮細胞への分化誘導実験プロトコールでES細胞を肺上皮細胞へ分化できることを確認した。また、各分化段階の細胞サンプルでNrf2と肺分化マーカーの発現上昇をRT-PCR解析で追跡した。このことからNrf2が肺分化過程で重要な意義を担っていることが推測され、今後更なる解析が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①Nrf2が制御する肺発生関連遺伝子の探索: Nrf2過剰発現マウスに肺発癌剤であるウレタンを投与した肺腫瘍結節からRNAを抽出し、網羅的遺伝子発現アレイ解析を行った。Nrf2が直接制御する肺発生関連遺伝子を検討し、Nrf2の標的遺伝子候補を検討中である。Nrf2過剰発現マウスから得られる腫瘍は非常に数量が少ない。そのため遺伝子発現アレイ用のサンプルを採取し、RT-PCRで各遺伝子の発現量を確認できたことから、本実験は順調に進展していると評価できる。 ②iPS細胞からの肺胞上皮細胞分化におけるNrf2の機能解析: (i)Nrf2欠損iPS細胞の作製; Nrf2欠損及び野生型マウスに全身性に赤色蛍光を呈するRosa26;td-Tomatoマウスを交配し、胎児線維芽細胞を得ることができた。現在山中4因子を遺伝子導入し、生体内でiPS細胞由来の肺上皮細胞を追跡することが可能なiPS;td-Tomato細胞を作製で、特に遺伝子型に合わせた効率的な細胞の培養方法・保存方法等を検討中である。そのため、本実験はおおむね順調に進展していると評価している。 (ii)多能性幹細胞の肺胞上皮への分化をin vitroの系で解析; ES細胞から肺上皮細胞への段階的な分化(多能性幹細胞→前腸内胚葉細胞→肺胞上皮細胞)誘導実験プロトコールを用いて、ES細胞を肺上皮細胞まで分化誘導することが可能になった。今後はこの実験系を土台としてiPS細胞の分化実験に応用することができるため、本実験は順調に進展していると評価できる。 (iii) マウス片肺切除による肺再生モデルを確立し、in vitroのみならず、in vivoにおけるNrf2の肺再生への寄与を検討することが可能となった。このことから、本実験は順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
① iPS細胞を用いたNrf2の肺分化への寄与の解明:野生型マウスから樹立したiPS細胞の肺上皮細胞への分化の効率をin vitroの系で確認する。この際にNrf2誘導剤を添加することで、肺上皮細胞分化の効率が上昇するかを確認する。また、Nrf2欠損は細胞内に酸化ストレスを蓄積することから、遺伝子変異を誘導することが考えられる。そのため、各肺胞上皮細胞への分化段階における網羅的な遺伝子変異解析も検討する。Nrf2欠損胎児線維芽細胞から得られたiPS細胞は継代することが困難であるため、より簡便にドキシサイクリンを用いたiPS細胞誘導系の確立を検討する。 ②マウス肺再生モデルでNrf2の肺再生における役割を検討する。平成25年度に確立した片肺切除モデルをNrf2欠損/Nrf2野生型マウスで行う。Nrf2欠損マウスで肺再生能が低下するのかを検討する。 ③ 上記実験によって得られた結果をまとめ、学会で成果発表を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初予定していたiPS細胞作製後の維持培地に使用する試薬購入費に物品費を計上していたが、iPS細胞作製が困難であったため一部使用しなかった。それに伴い肺分化誘導実験で使用する試薬購入費を今年度は十分に使用しなかった。 本年度までの成果を学会で発表するために旅費を計上していたが、研究の成果も充分に得られているため次年度にまとめた形で発表を行う予定である。上記と理由を同じくして次年度に論文投稿を行う予定のため、論文投稿料、論文英文校正料を計上していたが使用しなかった。 平成26年度は前年度に確立した多分化細胞の肺分化誘導実験に必要な試薬購入費(免疫染色・FACS用の抗体)に使用する予定である。Nrf2欠損細胞からのiPS化が困難であることが予想されるため、ドキシサイクリン誘導性にiPS細胞を作製できるベクターを購入する。肺分化における遺伝子変化を検討するため全ゲノム/全エクソーム解析用の試薬を購入する。また、学会での成果発表の旅費代、国際誌への論文形式による発表に際する投稿料、英文校正費に使用する予定である。
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