研究課題
疾患の有無や血圧値などのヒト形質において、一般的なSNPをひとつづつ検査する戦略(SNP-GWAS)によって説明できる遺伝率は一部に過ぎず、失われた遺伝率問題と呼ばれている。従来より、複数の遺伝子間の相互作用、あるいは環境と遺伝子間の相互作用の寄与が疑われており、このような単一遺伝子検査戦略では捕捉不可能な遺伝要因を見出すことは重要な課題である。莫大な候補群から、限られたサンプル数のもとで相互作用を発見していく必要があるが、そのための統計的手法はまだ整備されていない。計算コストの問題に加えて、実用に耐えうる検出力を得るために、統計手法の理論的発展が求められる。本研究では、相互作用解析における検出力の向上を目標とする。平成26年度は、前年度に実施したSNP×SNPデータに対する様々な仮想モデルから発生させた人工データを用いて、BOOST法(Wan et al. 2010, Am J Hum Genet)の挙動をより詳細に調べた。その結果として、検出力を向上させる方法を新たに開発できた。具体的には、現実的なサンプル数のもとで頻繁に遺伝子型の分割表に空セルが生じるが、その場合に、従来の固定自由度の検定では検定が保守的となることを見出し、その代わりに自由度を適応的に変動させることで検出力を高めるという単純な方法である。提案手法は既存のBOOSTプログラム等を利用することで容易に実行可能である。人工データを用いた数値実験を通じて、提案手法が実際に検出力を高めることが確認できた。得られた成果を論文として出版し(Ueki 2014, Stat Med)、また、シンポジウムおよび講演にて研究発表を行った。一方、最新の遺伝統計手法をレビューした内容をまとめて、書籍を一部執筆した。さらに、研究代表者が一部データ解析を担当した共同研究が論文として出版された。
2: おおむね順調に進展している
本課題の重要な目標であった遺伝子間相互作用解析の検出力を高める新たな方法を開発し、論文として出版することができた。以上より、当初の目標はほぼ達成されたと考える。
平成26年度の活動により、新たな課題が多く見出された。新たに得られた知見をもとに、さらなる手法の改良・開発を目指し、特に、実データ応用に重点を置いて研究を推進する。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 3件) 図書 (1件)
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