研究課題
若手研究(B)
本研究では「血管組織の再生に伴って分解・吸収される足場機能を持った人工血管(生体吸収性人工血管)」を実現するため、血小板は粘着せず(抗血栓性)、血管内皮細胞は接着する(内皮化)生分解性ポリマーの創製を目指している。具体的には申請者が専門とする生分解性ポリカーボネートの機能化によって側鎖にエーテルやアセタール構造を導入し、材料表面の水和を制御することで、抗血栓性と内皮細胞の接着性の両立を達成させる。これまでに、直鎖エーテルであるメトキシエチルエステルを側鎖として導入した脂肪族ポリカーボネートが酵素分解性があり、従来の非分解性だが優れた抗血栓性を示すポリマーと同等のヒト血小板に対する粘着抑制効果を示し、また、ヒト臍帯静脈内皮細胞に対しては高い接着性能を示すことを確認している(国内・海外特許出願済み)。有機分子触媒を用いた重合制御によって低分散度の高分子量体が生成するものの、ガラス転移点が低く、自己支持性に乏しく、単独の成形は難しい。そのため、今後は架橋構造の導入と共重合による機械物性の向上を検討していく。一方、メトキシ基や5員環エーテルを置換基として導入したカーボネートモノマーの合成を完了させており、これらの開環重合によって得られたポリマーの評価も行っていく。また、これらのモノマーの合成法に関して、従来必須とされていた保護・脱保護過程を経由しない新手法の開発にも成功した(特許出願済み)。含水させたポリマーの熱分析から、本研究で開発したポリマーも細胞の接着や血小板粘着に大きく関与するとされる水和水を含むことを確認した。さらに脂肪族ポリマーにおいてはポリエステル骨格よりもポリカーボネート骨格において、その主鎖構造の水和への寄与が特異的に高いことを見出した。
2: おおむね順調に進展している
血小板は粘着せず、血管内皮細胞は接着する生分解性ポリマーの創製に関しては、良好な結果を示した1例を報告するに至っており、一応達成されている。側鎖に様々なエーテル・アセタール構造を導入した生分解性ポリカーボネートの合成については数種のモノマー合成まで完了させており、重合と評価、抗血栓性と内皮化に有効な構造の同定が残っており、3-4割の達成度といえる。フィルム形態での特性評価の結果、スピンコート状態にて表面機能と生化学的性能は及第点が得られており、自己支持膜での力学特性評価が残されている。血管などの軟組織の足場に求められる柔軟性はすでに達成されており、弾性の付与による機械強度の向上が必要である。そのため、6-7割の達成度に到達しているといえる。含水ポリマー中の水和水の熱特性解析では、「中間水」と呼ばれる血小板粘着抑制などの生体適合性の発現に関与する水を、他の脂肪族ポリエステルなどよりも脂肪族ポリカーボネート骨格が特に多く形成する事実を明らかにした。この点では一定の達成度が評価できる。一方、示差走査熱量測定(DSC)を用いた水和水の熱特性解析は含水ポリマー全体の平均情報を与えるため、実際のポリマー界面の水和状態を把握するためには別の解析を行う必要がある。また、表面の水和状態と細胞接着の関連性を調べる別の生化学的試験も実際には求められる。合成したポリマーの生分解性に関しては、これまでも類似骨格のポリマーの生分解性が報告されていることから明らかで、実際にリパーゼに対して酵素分解性を示すことは確認しているが、分解速度や側鎖、水和性の影響を定量的に評価する手法の確立が必要と考えられ、5割程度の達成度といえる。
優れた性能を示した開発済みのポリマーについては、優先して機械強度の付与を検討する。当初の、他のエーテル骨格を導入したモノマーと同様に二頭性の架橋モノマーを合成し、共重合させる手法よりも、プロセス面での利点が多い末端基修飾による紫外線架橋を建都する。具体的には、多官能性開始剤を用いて重合し、多分岐化したものの末端に二重結合を導入し、スピンコートやキャスト法によってフィルム化したものに紫外線照射を行って架橋させる。照射時間や直鎖ポリマーとの混合によって架橋度を制御し、力学特性を評価し、抗血栓性や細胞接着性への影響を調べる。環状アセタール基を導入したカーボネートモノマーを新たに合成し、これまでに合成した新規モノマーと共に開環重合性を検討する。そして得られたポリマーに対して、含水状態での水和水の熱特性解析と細胞実験を行ない、側鎖構造の最適化を検討する。生分解性の評価については、水晶振動子マイクロバランス(QCM)を使用して、酵素分解を定量化し、ポリマーの分子構造・水和性が与える分解速度への効果を明らかにする。界面水和に関する別の解析手法の検討や、水和と細胞接着の関連を調べるためのタンパク質吸着の解析については時間的余裕がなければ、期間後に継続して行う。
旅費に関して、特に国際学会参加について民間からの助成金を獲得できたため、差額を消耗品購入に充当した。結果として、おおよそ今年度請求分を使用しており、繰越額も小額に抑えている。翌年度請求分と合わせて主に物品購入費に充当する。
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Nature Communications
巻: 4 ページ: 1-9
10.1038/ncomms3861
ACS Macro Letters
巻: 2 ページ: 332-336
10.1021/mz400069u