本研究では「血管組織の再生に伴って分解・吸収される足場機能を持った人工血管(生体吸収性人工血管)」の創出を目指し、血小板非粘着性(抗血栓性)と血管内皮細胞接着性(内皮化能)を示す生分解性ポリマーの開発を検討してきた。 これまでに、数種の含エーテル基側鎖を導入した脂肪族ポリカーボネートを合成し、その過程でモノマーの新規合成ルートも開発した(H26年度出願特許公開、学会発表4件)。このうち、メトキシエチル基を導入したPMEMTCでは、既存の非分解性抗血栓性ポリマーと同等のヒト血小板非粘着性とヒト血管内皮細胞の接着性を確認している(H25年度国内外特許出願)。今年度は水晶振動子マイクロバランス(QCM)を用いて、定量的にPMEMTCが無置換のポリトリメチレンカーボネート(PTMC)よりも緩やかに酵素分解されることを確認した(学会発表1件)。さらに、光架橋、ポリウレタン化、ポリ乳酸とのブロック共重合を検討し、いずれにおいても抗血栓性を維持しつつ機械的強度を向することに成功した(学会発表4件)。またPMEMTCが共重合によって抗菌ポリマーの溶血性(赤血球への作用)を抑制する効果も見出した(H26年度特許出願、学会発表4件)。 含水ポリマーの熱特性解析より、PMEMTCの他、側鎖に5員環エーテル、環状アセタールを含むPTHFMTC、PETHPMTCも、抗血栓性に関与する「中間水」を確認した(学会発表2件)。後者2つはPMEMTCより高い表面の濡れ性を示し、高い抗血栓性の発現も期待されるため、今後継続して抗血栓性と細胞接着性を調べていく。 また、「中間水」に関与する構造因子の解明のため、無置換の脂肪族ポリエステル類の含水状態の水和挙動を調べた。その結果、PTMC骨格は脂肪族ポリエステルよりも水との接触による表面の構造変化が大きく、主鎖構造の水和への寄与が高いことを見出した(論文発表2件)。
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