研究課題/領域番号 |
25870079
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
高橋 由貴 福島大学, 人間発達文化学類, 准教授 (90625005)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 文体論 / 1960年代 / 映画と文学 |
研究概要 |
初年である平成25年度は、1960年代文学と写真・映画領域との交渉に関する研究および1960年代文学の文体の創出・変容に関わる研究について、大江健三郎を中心として進めた。 研究を遂行する上で必要な作業として、山形ドキュメンタリーフィルムライブラリーの目録リストを作成し、グラビア誌を中心とする視覚重視の雑誌の調査に着手した。また、視覚メディアに抗する側として、雑誌『沖縄経験』や同人雑誌『白描』といった雑誌調査を行った。本年度の作業は、媒体を絞らずに各雑誌の特徴を押さえることを目的としているため、網羅的な雑誌目次の実見が主となった。次年度は、各々の雑誌がどのような文学の潮流に関わるのかを見定めつつ、対象や論点を絞ってリスト化する予定である。 上記調査に基づき、本年度は1960年代文学の視覚メディアの受容と1960年代文学における文体論の双方の研究においてそれぞれ業績をあげている。ドキュメンタリー映画と1960年代文学の交渉に関する成果は、「大江健三郎と映画」という研究報告に結びついている。メディアに抗する文学に関わる成果として、「大江健三郎におけるフランス・ユマニスムの受容」と題する国際学会報告を行った。さらに、この発表を「大江健三郎のフランス・ユマニスム受容」として論文化した際、知的概観的世界観をめぐる三島由紀夫と大江健三郎の想像力のあり方を比較している。また、視覚メディア受容と抵抗する文体論の双方に関わる業績として、沖縄をめぐる報道とそれに対する大江健三郎の文体や様式について考察した「大江健三郎の沖縄経験」という国際学会報告を行っている。 次年度は、上記調査によるデータと先行研究を踏まえながら、1960年代文学におけるジャンルの混淆についてさらなる分析・考察を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究においては、雑誌・映画調査が予定通りに進み、調査データに基づいた研究成果を、口頭発表3本、論文2本として公開することができた。 まず、山形ドキュメンタリーフィルムライブラリー所蔵の映画リストを活用して大江健三郎小説における岩波映画受容についての口頭発表を行った。次に、当時のグラビア誌における沖縄報道を調査し、視覚偏重メディアとは対極的な人文学的に沖縄問題を扱おうとする季刊『沖縄経験』を入集・調査し、大江健三郎における〈政治と文学〉に関わる姿勢を「大江健三郎の沖縄経験」として報告した。また、視覚偏重によるインパクトやわかりやすさに抗する戦略としての学究的姿勢を「大江健三郎のフランス・ユマニスム受容」として明らかにした。さらに、視覚メディアに抗する大江健三郎の小説様式・方法的特性についても論文化している。
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今後の研究の推進方策 |
ドキュメンタリー映画およびグラビア誌の調査については、次年度以降も継続し、1960年代の文学と視覚メディアとの交渉についての基礎的なデータの蓄積を行う。引き続き、視覚メディア受容という観点からの1960年代文学の特性を明らかにしていくのはもちろんのこと、次年度はとりわけ、外国文学受容によって、1960年代の文学において文体の創出・改良が各作家に実践されていくことを究明していく予定である。
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