研究実績の概要 |
原発事故の被災地域における毎時数マイクロシーベルト以下の放射線被ばくの蓄積が、そこに生育する植物の塩基配列の変異に与える影響についてはほとんど明らかにされていない。しかし、ゲノム中の数~数十遺伝子座、多くても数百座を対象とした従来の解析や対象とする集団内がもともと遺伝的な多様性を有する解析では、低頻度で生じた突然変異を正確に把握することは難く、低線量の放射線の影響を定量的に評価することは極めて難しかった。そこで本研究では、日本各地に遺伝的に同一な個体が生育するモウソウチクを対象として、様々な放射線量の地域からサンプルを収集し、次世代シーケンサーから得られる大量の塩基配列データによって、生育地の空間線量と塩基配列の突然変異数との関係を評価した。 モウソウチクは、2013年に福島県のいわき市、大熊町、浪江町、南相馬市、相馬市、宮城県の白石市を含む全国14カ所から計94サンプルを採取した。これらのサンプルについて、マイクロサテライトマーカーを用いたクローン解析を行い、同一クローンであることを確認した上で、次世代シーケンサーを用いたMIG-seqによる塩基配列の比較を行った。 データを得たこととなる。2,718カ所の配列のうち1,438カ所については、得られた配列は完全に一致していた。サンプル間で多型の認められた1,280カ所のうち、1サンプルにおいてのみ認められた多型、つまり、比較的最近生じた可能性の高い多型が確認されたのは442カ所であった。これらの塩基配列についてのサンプルあたりの多型数は0~13カ所であり、空間線量の増加に伴う多型数の増加は認められなかった。したがって、比較的空間線量が高い環境で生育しているモウソウチクであっても、事故後に塩基配列の突然変異による多型を急激に蓄積しているということはないと考えられた。
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