東京電力福島第一発電所(以下,原発と略記)事故からの復旧は,日本の優先すべき課題の一つである。しかし,未だ汚染状況が不明瞭なSr-90等の核種 の存在が,風評被害等の要因となり,測定を通して住民の不安を払拭することが必要である。 γ線核種の定量は,Ge半導体検出器やNaI検出器を用いて容易に測定できる。しかしながら,β線核種であるSr-90の公定分析法は、分析時間が1ヵ月かかる。また,放射性元素を計測する際は,そのRI標準溶液が必要であり,放射線業務を行わない一般の分析事業所ではRI取り扱いに規制を受けるため,市民からの強い測定の要望に反して分析が進まない。この点からも,緊急事態において一般分析事業所でも分析できる測定手法が必要であった。 この課題に対して,震災前より質量分析(MS)法の利用が試みられてきたが、大型装置の使用は,設備投資にかかる高額な費用面から国内設置数も少なく,汎用的ではなかった。 その一方で,高周波誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)は,pptレベルの金属元素の多元素同時定量や多検体連続分析に優れた汎用機器である。しかしながら,他のMSと同様に課題が残ったままであった。 そこで、本研究は,放射性ストロンチウム(Sr-90)分析に特化した高周波誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)システムを開発し,福島県下のSr-90汚染状態を解明することである。 Sr-90のICP-MS分析において,最も困難な「同重体分離」,「放射平衡」,「検出感度」の問題を,「装置内酸化反応」と「カラム濃縮分離」をカスケード型に配置することで解決し, Sr-90標準溶液を使用しない誰もができる分析手法を構築した。測定の自動化により,分析の高速化,放射線防護,核種の誤認識防止を同時に達成できた。今回,実用性の実証と汚染状況を明らかにした。
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