近代以降の日本において、公的な生活保障はほとんど常に社会的包摂――シティズンシップ――を基本理念として意味づけられてきた。しかし、社会的包摂つまりシティズンシップは、「生存権」を基礎づけうる唯一の論理というわけではない。歴史を振り返れば、公的救済をめぐって異なる考え方があったことを知ることができる。 本研究は、日本の近世および近代の歴史のなかの「生存権」を探求し、その結果、シティズンシップとは異なる二つの「生存権」の理念――モラル・エコノミーと「人」権――を見出した。そして、多様な「生存権」論のせめぎ合いを歴史社会学的な視点から分析することによって、〈救貧の近代化〉の論理と政治を描き出した。
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