研究課題
若手研究(B)
TMEPAIは腫瘍細胞で発現が亢進しているタンパク質で、TGF-bシグナルのネガティブフィードバック制御分子として働くことが知られる分子である。TGF-bシグナルは細胞増殖、アポトーシス、細胞の運動性、細胞外マトリックスの産生など様々な生理作用を調節するシグナル系であり、その異常が多くの疾患に関連することが知られている。特にがんにおいて盛んな研究がされており、TGF-bはがんの初期発生過程においては細胞増殖を抑制する抗腫瘍作用を有するが、がんの悪性化過程においてはEMTの誘導や細胞の運動性を亢進することで、がんの浸潤能を増強し、加えてがん細胞自身が分泌するTGF-bによる免疫抑制や血管新生誘導により、がんの悪性化を助長することが知られている。従って、がんで発現が上昇しているTMEPAIはTGF-bシグナルの制御を介して、がんの発生や進展に関与している可能性が考えられた。本研究ではTMEPAIの肺がん細胞における役割について検討した結果、TMEPAIをノックダウンした肺がん細胞では、ヌードマウスに移植した腫瘍塊が有意に減少し、がん細胞の特徴である足場非依存性の増殖能についても低下することが明らかになった。また、TMEPAIの発現調節機構について検討したところ、TGF-bシグナルと協調的にEGFシグナルが働くことによりTMEPAIの発現が亢進することを見出し、がんにおいて発現が亢進しているTMEPAIの発現機構を解析した。さらにTMEPAIのファミリー分子であるC18orf1の機能を検討し、TMEPAIと同様にTGF-bシグナルを抑制することを示した。生体内におけるTMEPAIの機能についてはTMEPAIおよびファミリー分子であるC18orf1のノックアウトマウスを作製、解析したが、明確な表現型が認められなかったことから、ダブルノックアウトマウスを作製している。
2: おおむね順調に進展している
TMEPAIの肺がんにおける役割を検討し、TMEPAIの発現を抑制すると腫瘍形成能が顕著に減少することを明らかにした。また、TMEPAIの発現制御機構について、TGF-bとEGFシグナルが協調してTMEPAIの発現を誘導することが認められ、がん細胞で頻繁に活性化が認めれれるEGFもTMEPAIの発現亢進に関与していることが示された。さらに、TMEPAIのファミリー分子であるC18orf1もTGF-bと同様にTGF-bシグナルを抑制することを見出し、報告した。マウス個体における解析については、TMEPAI、C18orf1ノックアウトマウスともに明確な表現型は認められなかったことから、ダブルノックアウトマウスを作製している。抗TMEPAIモノクローナル抗体は作製したが、ホルマリン固定パラフィン標本を安定的に染色する抗体の作製には至らず、臨床検体の病理学的解析については今後の課題である。
TMEPAIの発現を減少すると腫瘍形成能が低下することが認められたが、その作用がTGF-bシグナルを介するか否かについては未だ検討の余地がある。現在進めているTMEPAIの分子機能に関する結果から、TMEPAIはTGF-bシグナル以外にも、他のシグナル系にも影響する可能性が考えられる。そこで、TMEPAIをノックダウンしたがん細胞にTMEPAIを再発現させた時の腫瘍形成について検討する。その際、TMEPAIの変異体(TGF-bシグナル抑制機能の欠損した変異体等)についても同様に検討することで、より詳細にTMEPAIがどのようにして腫瘍形成に関わっているのか検討する。生体内でのTMEPAIと大腸腫瘍形成能を検討するためにTMEPAIノックアウトマウスと消化管腺腫モデルAPCMin/+マウスの交配を試みたが、TMEPAIマウス作製に用いたES細胞の血統によるバックグランドの影響が認められたため、バッククロスを十分に行った後に検討する。また、化学発癌(AOM+DSS投与)についても検討する。
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Journal of Biological Chemistry
巻: 289 ページ: in press
Cancer Science
巻: 105 ページ: 334-341
10.111/cas.12355
http://www.md.tsukuba.ac.jp/epatho/publication.html