研究課題/領域番号 |
25870098
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
津田 博司 筑波大学, 人文社会系, 助教 (30599387)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | オーストラリア / 多文化主義 / アンザック / マイノリティ / 記憶 |
研究実績の概要 |
今年度は、1990年代以降のアンザック・デイを対象に、民族的マイノリティによる「参画」の実態を明らかにするべく、オーストラリアでの現地調査に取り組んだ。対象となる時期のうち、まさに現在進行形の事象については、4月23日から27日にかけて、シドニーでフィールドワークを実施し、文献史料を用いた長期的な視点による補完として、8月9日から24日にかけて、オーストラリア国立図書館およびニューサウスウェールズ州立図書館での史料調査を行った。 多文化主義の進展とは対照的に、アンザック・デイは長らく、その担い手や戦没者表象において、非イギリス系マイノリティが周縁化された状況が続いてきた。しかし、21世紀に入ると、メディアにおける非イギリス系への言及がしだいに増加し、シドニーのレッドファーン地区における式典が示すように、先住民を始めとするマイノリティが、独自の運動を展開するようになる。そこでは、自らの先祖もまたイギリス系と同じ「英雄」であるという認識の下、「黒いアンザック」が経験した差別などを通して、現在の先住民問題の背景ともなっている人種主義を糾弾する言説が確認できる。こうした動きは、人種主義に対する批判という点では、1980年代のフェミニスト団体と共通する反面、アンザックの伝統にむしろ積極的に与するという点で、決定的な相違点を有している。これらの分析からは、マイノリティをめぐる言説構造の変化とそれに対するマジョリティの反応が、重要な課題として抽出できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
所定の研究実施計画に基づいて、昨年度の研究で得られた知見をさらに発展させ、現在のオーストラリアにおけるアンザック・デイが有する特徴について、長期的な文脈から考察を行うことができた。とりわけマイノリティの排除・包摂をめぐる言説構造の変化という着眼点は、来年度に予定されているアンザック・デイ100周年の記念事業を分析していくにあたって、有益な分析上の基礎となるものと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、2014年から15年にかけて行われている第1次・第2次世界大戦関連の記念事業について、フィールドワークと史料調査を実施する。アンザック・デイの式典については、保安上の理由による入場制限などの事情から、ガリポリでのフィールドワークが困難であるため、実施場所をシドニーに変更する予定である。また、研究の最終年度として、日本西洋史学会やオーストラリア学会での学会発表や論文投稿などを通じて、本研究課題を通じた成果発表を重点的に行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
所属研究機関における会計処理の手違いで、旅費の支出打切り額が少なく計上されたため。
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次年度使用額の使用計画 |
残額を繰り越し、来年度の旅費に合算して使用する。
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