H27年度の研究の主な進捗状況は以下である。 1)産物書上帳に記載された魚名の解明 産物帳に記載された魚名について、既往の研究論文や地域住民への聞き取り調査を踏まえ、解明した。この結果を農村計画学会誌へ投稿し、2016年3月に掲載された。 2)明治期の地図を用いた土地利用の解明 栃木県中央部における明治初期の土地利用の解明と、終戦直後までの変遷をGIS上にて解明。また、藩政村の行政区別の土地利用をGIS上で解析。その結果、明治初期から戦後まで、森林面積は減少するものの、水田面積の変化は見られないことが明らかとなった。 3)栃木県中央部における昭和30年代の魚類相の解明 2)にて、明治初期から終戦後まで水田面積の変化がないことから、戦後、特に聞き取り調査が可能な昭和30年代を対象とし、昭和30年代の魚類の分布状況を明らかとした。この結果は、H28年度農業農村工学会にて発表を予定している。 期間全体を通し、本研究により、栃木県の水田水域における江戸期の魚類相の一端が明らかとなった。また、当時の農民が高いレベルで魚種を識別していることが明らかとなった。また、江戸期の測量に基づく地図情報は発見されていないものの、明治以降、終戦直後までの間については、水田水域の面積の変化が見られないことも地理情報(地図、空中写真)から明らかとなった。さらに、昭和30年代の魚類相とその分布状況を聞き取り調査により明らかにすることができた。これらは断片的ではあるが、江戸期の土地利用を色濃く残す明治初期から江戸期から終戦直後まで水田水域の土地利用は大きく変化せず、魚類相の大きな変化もない。したがって、今後水田水域の魚類相の保全の一つも目標として、昭和30年代の魚類相があげられる。今後は、断片的である本研究を補完する研究を積み重ねる必要がある。
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