研究課題/領域番号 |
25870110
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
草苅 伸也 群馬大学, 生体調節研究所, 研究員 (10510901)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 蛋白質チロシンリン酸化 / チロシン脱リン酸化酵素 / 高次脳機能 |
研究概要 |
本研究では、細胞質型チロシンホスファターゼShp2を介した脳高次機能制御機構の解明に取り組んでいる。研究代表者は、これまでの解析から、成熟前脳神経細胞特異的なShp2 コンディショナルKO(cKO)マウスを作製し、様々な行動解析を行った結果、Shp2 cKOマウスが高い活動性(多動性)を示すことを見出している。さらに、マイクロアレイ解析の結果から、Shp2 cKOマウスの脳では、神経活動性の指標となる最初期遺伝子Arcおよびc-fosの発現低下が認められたことから、Shp2が神経活動制御に関わる可能性が示唆される。そこで、Shp2 cKOマウスの神経活動状態について解析を行った。まず、異なる時間、新奇環境に暴露したマウスの脳からRNAを抽出し、神経興奮の指標となる最初期遺伝子の発現をリアルタイムPCRにて経時的に検討したところ、コントロールマウスでは新奇環境刺激によりArcやc-fosをはじめとする様々な最初期遺伝子の発現が脳内で強く誘導されたが、Shp2 cKOマウスでは新奇環境刺激によって誘導される最初期遺伝子の発現が低下していた。研究代表者らは、すでに、Shp2 cKOマウスがシナプスの短期可塑性異常を示すことを見出しており、これらと併せて考えるとShp2がプレシナプスの機能調節を介して神経活動を制御する可能性が考えられた。そこで、コントロールおよびShp2 cKOマウスの脳よりプレシナプス画分であるシナプトソームを調製し、タンパク質のチロシンリン酸化レベルを検討したところ、Shp2 cKOマウスのプレシナプスではチロシンリン酸化レベルが亢進している分子が複数存在することが明らかとなった。これらの分子がShp2を介した神経活動制御に関わることが予想されることから、今後はShp2 cKOマウスにおいて、チロシンリン酸化レベルが亢進している分子を同定し、神経活動制御との関連について検討を行い、Shp2 を介した神経活動制御の詳細なメカニズムの解明に取り組む予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Shp2 cKOマウスの脳では新奇環境刺激によって誘導される最初期遺伝子の発現が低下しており、Shp2が神経活動制御に関与している可能性が示唆された。さらに、Shp2 cKOマウスの脳において、コントロールに比べチロシンリン酸化レベルが亢進している分子を見出しており、これらが神経活動制御に関わるShp2の新たな基質となる脳内チロシンリン酸化シグナル分子である可能性が考えられる。しかしながら、現在のところこれら分子の同定には至っておらず、この点については計画の達成は十分ではなかった。しかしながら、この点以外の計画は順調に達成できていることから全体としてはおおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
まず、Shp2を介した神経活動制御メカニズムを明らかにする。現在までに、研究代表者はShp2 cKOマウスにおいてチロシンリン酸化レベルが亢進している分子をいくつか見出している。これらの分子がShp2を介した神経活動制御に深く関わることが予想されることから、これらのチロシンリン酸化分子を同定し、神経活動制御との関連について検討することで、Shp2を介した神経活動制御メカニズムを明らかにする。これと並行して、Shp2を介した記憶・学習制御について詳細な検討を行う。研究代表者は現在までに、Shp2 cKOマウスが海馬依存的な記憶形成に異常を示すことを見出している。記憶は獲得、固定、呼び出し、再固定などのプロセスによって形成されると考えられていることから、今後は、Shp2が記憶形成のどのプロセスに重要か詳細に検討するとともに、その分子メカニズムの解析を進め、Shp2を介した新たな神経機能とその制御メカニズムの解明を目指す。
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