本研究【色彩療法とニューエイジ:スピリチュアル・ブームの表象文化論的研究】は、美学芸術学、表象文化論分野ではほとんど主題化されたことのなかった第二次世界大戦後の色彩療法(color therapy)の実態を、ニューエイジ運動、スピリチュアリズム、自己啓発運動との連関から明らかにした。色彩療法/カラーセラピーは19世紀末から神経心理学とともに発達したが、20世紀半ばのニューエイジ運動により神秘性やオカルト性が付与されるようになった。現在ではスピリチュアル・ブームの一端として、特に若い女性の間で人気を高めている。本研究はこの「誰でも聞いたことはあるが、その源泉はわからない」色彩療法の理論的基盤を分析し、現代人の欲望の体系を明らかにした。 研究代表者は、現代の色彩療法でも人気の高いオーラソーマの実践を観察する参与観察を行った。その成果を数本の論文で明らかにし、さらにその論文に書き下ろしの記事数章を加えて、単著『カラーセラピーと高度消費社会の信仰――ニューエイジ、スピリチュアル、自己啓発とは何か?』(サンガ、2015年9月)を出版した。この著作は、グローバリズムの多様性をめぐる良心から、どのような特定の神も信仰しえなくなった高度消費社会の住人が、オーラソーマのような無害で自己反省的な信仰に耽溺していく様子を明らかにした。情報化された高度消費社会の住人にとって、信仰のような非合理な姿勢が許されるのは、唯一「自己」においてである。戦争や飢餓のような共通の苦悩が稀になった日本社会において、「自己」に耽溺する現代人の苦悩を追った。 また本著では、このような現代特有の信仰を生み出した重要な人物として、神智学者のC・W・リードビーターを取り上げた。彼の著作『チャクラ』(1927)は、現代の信仰を特徴づけるニューエイジ、スピリチュアル、自己啓発のいわば原点となる思考法を提示している。
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