研究課題/領域番号 |
25870123
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
矢後 友暁 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (30451735)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ファラデー回転 / ラジカルプローブ / 電子スピン二重共鳴 / 有機分子 |
研究概要 |
本年度は、偏光が分子上の電子スピンと相互作用するかどうかを確認するために、ファラデー回転測定装置の構築および測定を行った。試料としては、主にキサントン分子の励起三重項状態を用いた。キサントン分子においては、光励起により大きなスピン偏極を持つ励起三重項状態が生成する。この励起三重項状態にプローブ光を照射し、約1Tの外部磁場存在下でファラデー回転測定を行い、分子上の電子スピンと偏光がどのように相互作用するかを検討した。 その結果、キサントン励起三重項状態において明瞭なファラデー回転現象が観測された。これは、偏光と電子スピンが相互作用していることを示すものである。観測されたファラデー回転は、励起三重項状態の電子スピン準位がゼーマン分裂することに起因するものであると考えられる。さらにこのファラデー回転信号の時間変化は、通常の可視-紫外吸収測定から得られる時間変化と異なっていた。このことは、電子状態が異なる二種の励起三重項分子が存在していることを示している。この励起状態の電子状態の相違は通常の可視-紫外吸収測定では判別できていない。このことは、通常の可視-紫外吸収分光では判別できない反応中間体をファラデー回転測定により、判別できることを示しており複雑な生体分子での反応機構解明に適用できると考えられる。 以上の結果は、本研究で構築した高感度ファラデー回転測定装置によって初めて得られた結果である。これまで無機分子に限られていた時間分解ファラデー回転測定が有機分子にも適用できることが明らかになった。ファラデー回転現象が観測されたことは、電子スピンと偏光が相互作用し、偏光によるスピン操作が有機分子においてもある程度可能であることを示している。このことにより、可視光を用いたスピンプローブ法の開発が十分可能であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の活動から、電子スピン偏極に由来するファラデー回転測定が観測できた。このことは、電子スピンと偏光が相互作用していること示しおり、本研究に必須である偏光による電子スピン操作が十分可能であることが明らかにされた。 さらに、重原子を含まない有機分子であるキサントンにおいて、ファラデー回転を観測するという計画当初には考えていなかった結果が得られた。一般的にファラデー回転は、スピン-軌道相互作用が強い無機物質において観測されてきた。そのため、計画当初は無機分子を用いて新たなスピンプローブ法を解発する予定であった。しかし、無機分子はスピン緩和が早く、通常のスピンプローブの研究においてはこれまで有機分子が主に使われてきた。本研究の結果より、無機分子に限らず有機分子も本研究のスピンプローブ法開発に用いることができることが示唆された。これは、本研究を遂行するにあたり非常に有用な結果である。有機分子においては、スピン緩和時間が長いため緩和時間に縛られことがなく様々なパルスシークエンス等を適用することが可能となると考えられる。 当初の計画では、本年度電子スピン共鳴測定を行う予定であったが、そこまでには至らなかった。しかし、有機分子がスピンプローブ法の開発に用いることができるという非常に大きなインパクトがある結果が得られた。さらに、イオン液体中においてイオン対に対する磁場効果を測定したところ非常に大きな磁場効果を観測した。このことから、イオン液体が可視光を用いたスピンプローブ法の開発において非常に有用なメディアのひとつであることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究から、分子上の電子スピンと偏光が相互作用し、偏光による電子スピン操作が可能であることが明らかとなった。そこで、偏光によるスピン操作を利用したスピンプローブ法の開発を推進する。通常の時間分解EPR測定と異なり、レーザーパルス光を磁場方向から入射する必要がある。そのため、共振器の改良、光学系の構築を行う。この二つのラジカルを用いて可視光レーザーパルスを用いた電子スピン-電子スピン二重共鳴(DEER)測定を行う。通常のDEER測定では、片方のラジカルにおいてスピンエコーを測定する。このエコー測定の間に、もう一つのラジカルにマイクロ波を作用させスピン状態を変換させる。(この場合は180°パルスによりスピンをスピンに変化させる)もし、二つのラジカルが相互作用していれば、双極子‐双極子相互作用により一番目のラジカルのエコーが変調を受ける。このエコー信号を解析することによりラジカル間距離を算出する。本研究では、二番目のラジカルにマイクロ波ではなく、可視光を照射しスピン操作し、DEER測定を行う。DEERによって得られたラジカル間距離と、試料の構造から予測されるラジカル間距離を比較し、本手法の妥当性を検討する。また、様々なパルスシークエンス、遷移金属の種類、レーザー光の偏光状態等を検討し、測定に最適な条件を決定する。さらに、スピンプローブ分子として無機分子だけではなく有機分子を用いDEER測定を行い、その測定効率について検討を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
納入業者との消費税の端数についての連絡ミス 実験データ整理時に利用するクリップの購入
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