本研究は、機関別質保証と分野別質保証との関係性について、特に医学領域を事例として、IR機能のあり方と体系性の観点からアプローチするものである。最終年度である本年度は、日本のIR機能の現状についての聞き取り調査と、これまでに構築したアメリカ・ヨーロッパ・日本の3点比較の枠組みから、それぞれの実態と特質についての検討を中心に進めるとともに、研究で得られた知見の整理とまとめを実施した。 本研究全体を通しての知見として、第1に、機関別評価と分野別質保証、特にプログラム評価の関係性は、評価負担軽減とアカウンタビリティからより実質的な質改善への方向性に伴い、前者から後者へ重心が移行しつつあることが明らかになった。このうち、オランダは例外的な事例の1つであるが、これは少数機関で構成される高等教育システムの構造を活かした特徴ある分野別質保証の枠組みがその前提にあることが指摘される。第2に、これらの関係性の中で分野別質保証におけるIR機能の実態は、データ定義、その収集・利用、データの継時的縦断性の保証等の点で、各専門領域・専門職関連団体が中心的な役割を果たしており、その機能が各機関の分野別質保証およびIR機能の負担の軽減を果たすという相補性が明らかになった。第3に、日本の分野別質保証が、卒後から卒前へではなく、卒前から卒後へという方向性で、逆向きに進展している特質を明らかにした。これらの構造的な差異が、わが国の分野別質保証におけるIR機能について、IR揺籃期の混乱という状況を差し引いても、各個別機関、各部局、IR担当者個人の取り組みに過度に依存し、負担が掛かる構造やIRの知見が学内に囲い込まれる状況を生み出す要因となっていることが確認された。公共性の観点およびIRの方法論の発展やエビデンスの質保証という点でも、IR機能を実質化する上で、持続的な共通基盤が構築される必要性が指摘される。
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