研究実績の概要 |
脂肪移植法のドナーのひとつである腹部皮下組織には、浅筋膜により隔てられた浅層皮下脂肪組織と深層皮下脂肪組織が存在することが知られている。両者は、解剖学的構築の違いから異なる物理的身体保護作用を持つが、細胞レベルでの機能的差異は明らかではない。本研究の目的は、皮下組織浅層と深層それぞれの脂肪細胞・脂肪組織由来幹細胞の細胞機能の違いを明らかにし、再生医療の目的別に適した細胞調製法を探求することである。倫理委員会承認の下、手術時に廃棄されるヒト腹部皮下脂肪を浅筋膜より浅層の脂肪組織と深層の脂肪組織とに分離し、それぞれから天井培養由来増殖性脂肪細胞(ceiling culture derived proliferative adipocyte, ccdPA)を分離した。脂肪組織単位重量あたりのccdPA回収数は浅層で有意に多かった。このことは浅層と深層の脂肪細胞生存能、すなわち細胞機能に差があることを示唆していた。ccdPAの脂肪分化能を比較したところ、浅層の脂肪細胞の方が深層と比べ有意に脂肪細胞マーカー(レプチン、PPARgamma)などの発現が高値だった。脂肪滴をオイルレッドO染色したところ、浅層の脂肪細胞が有意に脂肪滴が多かった。この傾向は継代後のccdPAでも同様で、細胞機能の差がエピジェネティックメモリーとして受け継がれている可能性が考えられた。PPARgammma遺伝子プロモーター領域のメチル化を測定したところ浅層で低値で、深層と比較した脂肪分化能の差の原因になっている可能性が考えられた。
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