研究課題/領域番号 |
25870141
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
畑瀬 英男 東京大学, 大気海洋研究所, 技術補佐員 (10512303)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | ウミガメ / 生活史 / 回遊 / 安定同位体分析 / 個体群内変異 / 孵化幼体 / 餌場 |
研究実績の概要 |
同じ砂浜で産卵するアカウミガメでも、小型個体ほど外洋で浮遊生物を、大型ほど浅海で底生動物を摂餌する傾向がある。浅海摂餌者は外洋摂餌者よりも2.4倍多く幼体を産出することと、摂餌者間で中立マーカーにおいて遺伝的構造がみられないことから、多型は条件戦略で維持されていると考えられている。しかしながら、外洋摂餌者の産出する幼体の生残率が高ければ、2.4倍の生産性の違いが相殺され、適応度が釣り合う可能性がある。その場合、多型は代替戦略として維持されているのかもしれない。幼体の生残には体サイズが関わると考えられる。今年度は、餌場が違えば孵化幼体の形態に差異を生じるのか検証した。 2014年5~6月に、鹿児島県屋久島永田浜において、本種の産卵個体調査を毎晩実施した。小型と大型が産んだ卵塊を、一晩に1又は2対、前浜の孵化場へ移植した(小型16巣、大型15巣)。一腹卵数を調べ、5個の卵重・卵径を測定した。安定同位体分析用に1巣につき1卵を採取した。7~8月に、移植巣へかごを仕掛けて地上へ脱出してきた孵化幼体を捕獲した。1巣あたり2~11頭の孵化幼体の甲長・甲幅・体重を測定した。脱出巣を掘り返して孵化および脱出成功率を調べた。 卵黄の炭素・窒素安定同位体比に基づくと、外洋浮遊生物食者が14個体、浅海底生動物食者が17個体いた。卵径・卵重、孵化幼体の甲長・甲幅・体重、及び孵化・脱出成功率に、摂餌群間で有意な違いがなかった。これは摂餌群間で幼体の生残率が違わないことを示唆し、アカウミガメ成熟個体の回遊多型が後天的なものであることを支持した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
野外調査、室内化学分析、データ解析、論文執筆、学会発表、ラジオ出演によるアウトリーチ活動などを滞りなく実施できた。今年度の研究から、母親の餌場はアカウミガメ孵化幼体の初期体サイズに影響を及ぼさないことが明らかとなった。この結果は、本種の回遊多型が後天的なものであることを支持する結果であり、ウミガメ類における代替生活史の維持機構の全容解明に一歩近づいた。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度の研究から、母親の餌場はアカウミガメ孵化幼体の初期体サイズに影響を及ぼさないことが明らかとなった。今後は、母親の餌場が子供の成長・成熟にどのような影響を及ぼすのかを、同一環境で飼育することにより検証する必要がある。また孵化幼体の特性には砂浜の孵化環境が大きく影響を及ぼすので、餌場の違う親ガメが微少スケールで産卵場所を選択しているのかどうかを詳しく検証する必要がある。得られた結果を総合することで、アカウミガメの代替生活史が条件戦略で維持されているのか、代替戦略で維持されているのか、結論づける。
|
次年度使用額が生じた理由 |
最終年度の国内旅費として利用するために、少し残しておいた。
|
次年度使用額の使用計画 |
屋久島での野外調査を2回に分けて行うため、その際に利用する。
|
備考 |
2014年4月5日放送のTBSラジオ「夢★夢エンジン」にゲストとして招かれ、ウミガメの研究について話した。番組のアーカイブサイトから当日の放送分をダウンロードできる(http://www.tbsradio.jp/yumeyume/index.html)。
|