【目的】同じ砂浜で産卵するアカウミガメでも、小型個体ほど外洋で浮遊生物を、大型ほど浅海で底生動物を摂餌する傾向がある。浅海摂餌者は外洋摂餌者よりも2.4倍多く幼体を産出することと、摂餌者間で中立マーカーにおいて遺伝的構造がみられないことから、多型は条件戦略で維持されていると考えられている。しかし外洋摂餌者由来の子供の、地上に出現してから最初の繁殖までの期間の生残率が高ければ、相殺が起こり、適応度が釣り合う可能性がある。その場合、多型は代替戦略として維持されているのかもしれない。本研究では、母親の餌場が違えば、子供の上記期間の生残率に関わってくる生活史初期の体サイズ、成長速度、及び死亡率に差異を生じるのかを、既報よりも暑い時期に幼体を孵化させ、水族館で飼育することで検証した。 【方法】2015年6月下旬から7月上旬に、鹿児島県屋久島永田浜において、本種の産卵個体調査を毎晩実施した。小型と大型が産んだ卵塊を、一晩に1又は2対、前浜の孵化場へ移植した(小型と大型各10巣ずつ)。安定同位体分析用に1巣につき1卵を採取した。8月上旬から下旬に移植巣へかごを仕掛けて、脱出してきた孵化幼体を捕らえた。体サイズ計測後、1巣につき1頭の幼体を南知多ビーチランドへ輸送した。12月中旬まで可能な限り同一環境で飼育した。 【結果】卵黄の炭素・窒素安定同位体比に基づくと、外洋浮遊生物食者が9個体、浅海底生動物食者が11個体いた。外洋と浅海由来の各1巣は孵化せず、幼体を捕獲できなかった。卵重、孵化期間、孵化幼体の甲長・甲幅・体重、巣からの脱出成功率、成長速度、及び死亡率に、摂餌者間で有意な違いがなかった。これは摂餌者間で、子供が孵化してから最初の繁殖に至るまでの間の生残率に違いがないことを示唆し、アカウミガメ成熟個体の回遊多型が後天的なものであることを支持した。
|