研究課題/領域番号 |
25870149
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
武多 昭道 東京大学, 地震研究所, 助教 (30589271)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 固体地球物理 / 水文学 / 宇宙線 / 空気シャワー |
研究概要 |
本年度は宇宙線に含まれる電子、陽電子、ガンマ線を用いて土中水分量を測定するための専用検出器の開発と基礎特性試験を行った。開発項目は以下の通りである。 1.一平米の面積をカバーするセグメント型のシンチレータ検出器、特に効率的に粒子を収集する大面積シンチレータの開発 2.検出器や環境ガンマ線に起因する誤差やノイズを低減するための、専用電子回路の開発 3.組立水槽を用いた、検出器の校正装置の開発 1.については当初想定していた性能を得ることができなかったため、2.の電子回路の性能を当初の設計から向上させることで対応を行った。2.の開発の結果、安価に多チャンネルの信号を読み出すシステムの開発に成功した。具体的には、16チャンネル、12bit、80MHzのアナログデジタル変換回路に、オペレーションシステムや通信、データ記録システムを搭載したものが、チャンネル単価1万円を下回る費用で製作可能となった。このシステムは64チャンネルまで拡張可能である。一般に小規模な読み出しシステムは市販品、大規模な読み出しシステムは集積度の高い特注システムで対応するが、中規模な読み出しシステム構築には適切な市販品が存在せず、特注するには費用がかかりすぎてしまうため、結果として非常に性能の低いものを使用せざるを得ない状況であった。本研究で開発した回路はその問題を解決するものであり、潜水艦搭載のセンサーや狭隘な空間での多チャンネルアナログデータ処理に応用が可能である。3.による基礎特性試験の結果、10cmの水位変化を4時間で観測することができるようになった。また、解析アルゴリズムの最適化によって、10cmの水位変化に必要な時間は2時間程度までに短縮できることも分かった。 1.の項目については当初の目標通りの性能が得られなかったが、装置全体としては当初の目標を上回る性能を得ることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
検出器の開発と運用には成功したが、実際に検出器を用いて観測を行うには至らなかった。理由は以下の通りである。 シンチレータの大面積化に伴い、透明度の悪化が研究開始当初より予想されていたが、当初の想定よりも悪化度が深刻であり、既存の電子回路を用いた観測が不可能であることが分かった。このため、電子回路の設計を見直す必要が生じた。 加えて、円高に伴う検出器部品費用の増大が発生した。シンチレータおよび光電子増倍管の数を減らすことは性能の劣化に直接影響するため、電子回路の設計費用を抑えることで対応を行った。設計費用を抑えるためには、設計の大半を自らが行う必要があり、これが研究の遅れの主な原因となった。
|
今後の研究の推進方策 |
以下の2つの項目について研究を行い、それらの成果を公表する。 1.絶対重力計との相互比較 新規に開発した宇宙線電磁成分観測装置を用いて、桜島有村観測坑にて土中水分量観測、特に斜面水文観測を行う。この観測と、既に設置されている絶対重力計との観測結果を相互比較することにより、宇宙線電磁成分を用いた水文観測が固体地球物理学に応用可能であることを実証する。絶対重力計による観測はマグマの昇降をとらえることを主目的にしているが、降雨による擾乱を受けやすく、その影響を電磁成分観測によって定量的に補正することで、噴火予知の精度及び信頼性の向上につながる。 2.傾斜計との相互比較 桜島やその近辺に、高精度の傾斜計が設置されている。これらも絶対重力計と同様に、降雨による擾乱を受ける。傾斜計はマグマだまり内部のマグマ量の増減や圧力の変化をとらえるためのものであるが、降雨による擾乱を定量的に補正することができれば、前項と同様に噴火予知の精度及び信頼性の向上につながる。 上記2項目共に、検出器の移設と運用であり、観測に必要なインフラは既に整っているため、特段の困難は生じないと予想されるが、桜島の噴火活動が活発になった場合はその限りでは無い。特に有村観測坑は加工から2km圏内にあるため、噴火活動の状況によっては観測が不可能な状況になる可能性がある。その場合には観測対象を火山における斜面水文観測から地滑り多発地帯における水文観測に変更する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は直接経費全体の1%未満であり、端数処理のために無駄な経費を消費するよりは、次年度に旅費として有効活用した方が研究全体の効率を向上させると判断したため。 桜島有村観測坑への観測旅費として使用する。
|