地表に降り注ぐ宇宙線には、ミューオン以外にも電子、陽電子、ガンマ線から成る電磁成分が含まれており、これらは厚さ数十m程度の比較的薄い構造物の透視に適している。本研究では、宇宙線電磁成分を用いた土壌水分量測定の専用装置を開発し、鹿児島県桜島にて観測を行った。今年度は、観測装置の定常運用、データ解析、水槽を用いた検出器の校正を行った。校正の結果、1時間で10㎝の水位変動を観測可能であることが分かった。桜島における観測結果から、検出器周辺の水位変動は降雨量と必ずしも比例しないことが分かった。降雨開始から水位が最大となるまでの時間は2時間、降雨終了から通常の水位量に戻るまでには6時間であること、水位上昇の最大値は20㎝であることが分かった。この時間スケールや、水位上昇の最大値は、斜面水門計算によって得られる値と大きく異なる。本研究で水位観測を行った土壌は、軽石と火山灰を主成分とする無機土壌であり、水分の保持力が非常に弱い。したがって、地下水流動は通常の斜面と比較して早く、また、水位上昇の最大値も小さくなったと予測される。検出器上部に保持される水分量に上限があるという情報は、同時に観測を行っている絶対重力系観測の校正に有用であり、今後は火山噴火予知への貢献が期待される。また、今回開発した検出器は地滑り予測に対しても有用であるため、本研究で開発した検出器と測定手法を、防災科学に応用していく予定である。
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