本研究は新生児集中治療領域(NICU)における市中獲得型メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症の効果的な感染対策を確立するため、市中獲得型MRSAの疫学、感染伝播様式、環境中での生存期間、消毒薬への抵抗性について明らかにすることを目的とし解析を行った。対象は2007年1月から2012年6月にNICU患者から分離されたMRSA 113株とした。Multiplex PCR法を用いたSCCmec型別判定の結果、NICUでの市中獲得型MRSAの検出は2007年の12.5%から2012年の85.7%へと経年的に増加を認めた。一方、外科成人例では各年16-25%と変化は認められなかった。保菌部位の比較では市中獲得型MRSAは病院感染型と比し鼻腔での保菌率が低く(62.9% vs 74.5%)、糞便での保菌率が高い(43.5% vs 29.4%)傾向が認められた。また、市中獲得型MRSAは病院感染型と比し第四級アンモニウム塩消毒薬耐性遺伝子(qacA/B)の保有率が有意に低いことが判明した(41% vs 9%; P<0.001)。市中獲得型及び病院感染型MRSA各々5株を使用し、温度24-26℃、湿度30-45%の条件下で、ポリプロピレン環境表面上での生存期間を検討した。結果、市中獲得型MRSAは病院感染型と比し長期間生存することが判明した。本研究結果よりNICUで分離される市中獲得型MRSAは従来の病院感染型と比し、環境を介した伝播のリスクが高いことが示唆された。これらの結果を踏まえ、NICUにおけるMRSAの効果的な感染対策は従来の手指衛生・接触予防策の遵守に加え、環境整備の強化を含めることが重要であると考え、感染対策を強化したところ新規千入院患者あたりの新規MRSA発生率は50%程度の減少が確認され、対策は有効と考えられた。
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