研究課題/領域番号 |
25870153
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
水野 勝紀 東京大学, 生産技術研究所, 特任助教 (70633494)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 音響コアリングシステム / 蓮根 / 可視化 / 弾性FDTD / 堆積層 |
研究実績の概要 |
前年度に開発した弾性波動伝搬シミュレータ(Elastic Finite Differential Time Domain法による)を用いて、堆積層内の蓮根から反射する音響強度を見積った。尚、シミュレーションに用いた音響パラメータは、底泥サンプルと蓮根サンプルを用いて実験室において測定した値を用いた。伊豆沼の底泥は音波の吸収損失が大きく、蓮根から反射されてくる音響信号は極微弱であることが分かった。そこで、底泥下に広がる蓮根を確実に捉えるために必要な堆積層内探査用ソーナーの仕様を再度設定し直し、本多電子㈱と共同でソーナーの改造を実施した。それにより、高S/N化に成功し、また層の厚み計測に影響を与える鉛直方向の分解能を10 cmから3 cm程度に改善することが出来た。また、前年度までのフィールド試験の結果から、水底下40-60 cm深度に位置する直径25-30 mm程度の蓮根をセンチメートルスケールで可視化するためには、動揺が生じる従来の船上からの計測よりも、現場に設置するタイプの計測手法の方がデータをより正確に取得出来ると判断し、設置型の堆積層内音響可視化システム(3次元音響コアリングシステムと呼ぶ)を新規開発した。室内での基礎試験を経て、H26年7月(プロトタイプの試験)、11月、H27年3月にフィールド試験を行った。また、㈱AGSの協力を経て、ダイバーによる柱状コアサンプリングを実施し、その粒径分布やコア内に確認された蓮根の埋没深度と位置などを音響データと照らし合わせた。その結果、独自に開発した3次元音響コアリングシステムを用いて、底泥下53 cm深度に埋没する直径25 mm程度の蓮根の可視化に世界で初めて成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に立てた計画通り、平成26年度に構築した堆積層内の弾性波動伝搬シミュレータを用いて、堆積層内に埋没している蓮根からの音波の反射強度を見積もった。また、その結果を元に、堆積層内探査ソーナーの仕様を変更し、改造することにより、埋没している蓮根を音で可視化するために最適なソーナーを開発した。また、今回のシミュレーション結果より、直径25 mm程度の蓮根を確実に捉え続け、経過観察などのモニタリングを実施するのには、船上からの音響計測手法よりも設置型タイプの計測手法が適していると判断し、より実用的な計測手法を開発した。具体的には、現場設置型の防水スキャンニング装置と円周配置型のハイドロホンアレイを構築し、1 m2領域内を自動で2次元的にスキャンニングしながら音響データを取得するシステムを開発した。取得した音響データを基に、独自開発している信号・画像処理プログラムを用いて、堆積層内1 m3の3次元音響画像を構築し、底泥下を可視化した。また、音響計測を実施した箇所において、柱状コアを用いたサンプリングも併せて実施しており、コア内に入っていた蓮根の埋没深度と位置を明確化し、3次元音響画像内に見られた強反射体が蓮根であることを確認した。自然状態の蓮根を世界で初めて音響で捉え、さらに実際にそれをサンプリングし、データの裏付けが取れたことは当初計画以上の成果と言える。また、初年度、次年度に開発と実証を進めてきた高分解能音響イメージングソナーを用いた3次元音響画像構築手法に関しては、フィリピン沿岸域に広がる海草の分布調査に応用し、その分布状況を3次元的に可視化しており、本研究目標の一つである「開発する技術の他の浅瀬域における水生植物研究への展開」を達成し、水中を高分解能で3次元的に可視化するための技術は有用なツールであることを改めて示した。今後は民間技術移転などを考えていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である平成27年度は、これまでに開発した計測システムを用いてフィールド試験を中心に研究を推進すると共に、データの取り纏め及び結果の外部発信に努める。これまでの共同研究者との取組みの中で、ハスの全体分布形状に関しては、夏期における陸上からの観察及び、航空写真を用いた調査によって把握可能であるとの結論に至っている。しかし、ハスは無性生殖によって底泥下の蓮根を伸ばしながら生息領域を拡大していくことも多く、実際にハスがどの辺りまで拡大しているかを判断するためには、底泥下の様子を調べる必要がある。平成26年度の研究成果として、新規開発した音響計測手法により、底泥下に埋没する蓮根の可視化に成功したため、平成27年度はその計測手法を用いて蓮根の埋没密度を見積もる。これまでの調査で、ハスの大まかな分布形状や底質分布を把握しているので、特徴的な分布形状を示す幾つかの調査点において、開発した計測システムにより、蓮根の埋没密度を計測し、夏期における水面上のハス分布形状と底泥下の蓮根埋没密度を比較する。また、底泥下の蓮根からの反射信号をより明確化するためにビーム合成などの信号処理技術の検討を進める。また、これまでに取得してきたデータ、或いは平成27年度に取得するデータを纏め、共同研究者と議論した後に、海洋音響学会、日本陸水学会、海洋調査技術学会、IEEE Oceansなどの学会にて結果を発表し、成果を社会に還元する予定である。
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