転移はがんの予後を著しく不良にするため、転移の素過程を理解することは転移の予防法を開発する上で重要である。肝臓は血行性転移の高発部位として知られており、特に大腸がんの肝転移例は多い。その理由としては、肝臓特有の血管系である類洞は基底膜を持たず、がん細胞の浸潤を容易にしている点や、肝臓は免疫寛容臓器であるため、転移が成立しやすい点などが挙げられる。しかし、その詳細なメカニズムについてはよく分かっていない。本研究では、転移を許容する肝臓の特徴的な構成細胞に焦点を当て、肝転移におけるそれらの役割およびがん細胞の浸潤過程を肝転移モデルマウスにより解析した。がん細胞の接着に関しては類洞内皮細胞を、浸潤後の生着に関しては免疫細胞群を中心に解析し、肝臓への転移の素過程を解明することを目指し、研究を行った。この素過程を理解するため、大腸がん細胞株Colon26をマウス皮下に移植し、転移が成立する前の肝臓の免疫細胞を検討した。その結果、Ly6G陽性の好中球が肝臓に多量に移入していた。肝臓の遺伝子発現を定量的RT-PCRにて検討した結果、ケモカインKCの発現が有意に上昇していた。皮下にColon26を移植したマウスは、脾臓を介した肝臓への血行性転移が減少した。好中球を免疫的に除去したマウスでは、脾臓を介した肝臓への血行性転移が亢進した。したがって、肝臓転移に対して、好中球は抑制的に働くことが判明した。
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