研究実績の概要 |
本研究では、中性子とキセノン原子ガスの散乱角度分布を精密に測定し、既知の散乱過程による分布からのずれを評価することで、結合の弱い未知、重力に準ずる新しい力の媒介粒子を探索する。散乱素過程が異る角度分布形状を持つことを利用した尤度推定による解析方法を開発し本研究に応用することで、過去に行われてきた探索実験より高感度で探索実験を行うことを目的とする。
2013年度には、キセノン原子ガスを封じる真空チェンバー製作と内壁表面からのアウトガスについて調べ、散乱サンプルの汚染を十分に押え得る表面処理方法を確立した。また、予備実験を行うことで、コリメータ径の調整とビームハローを削減する中性子光学系の試験などを進め、バックグラウンド分布とシグナル分布との直交性を高めた実験環境を構築した。実験方法や予備実験の結果などは、The 12th Asia Pacific Physics Conference of AAPPS (APPC12) などの国際会議で公表した。
2013年の終りから2014年度始めにかけて2回目の実験を行い、予定通りの統計量を取得した。解析の結果、到達感度の範囲で新物理の兆候は見られなかったため、湯川型散乱ポテンシャルによる新粒子のパラメータ空間に対して制限を与えた。本研究で新しく得られた制限は、これまで過去に行われてきた研究結果より最大10倍厳しいもので、この結果を Phys. Rev. Lett. 114, 161101 (2015) として報告した。実験結果と次期高統計実験の見込みを、2015年度に International Conference on Gravitation and Cosmology 2016 など、4つの国際会議で報告した。
|