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2014 年度 実施状況報告書

急性放射線性消化管症候群におけるTLR3の役割

研究課題

研究課題/領域番号 25870165
研究機関東京大学

研究代表者

武村 直紀  東京大学, 医科学研究所, 特任助教 (50648699)

研究期間 (年度) 2013-04-01 – 2016-03-31
キーワード急性放射線性消化管症候群 / 自然免疫 / TLR3 / p53 / 小腸陰窩 / 細胞死
研究実績の概要

急性放射線性消化管症候群(gastrointestinal syndrome; GIS)は、高線量の電離放射線に被曝した場合に、小腸陰窩の上皮幹細胞が死滅して上皮構造が破綻し、下痢や腸炎が起こる急性疾患である。日常においては、骨盤腔内の悪性腫瘍に対して放射線治療が施行される際に同様の腸炎が起きることが知られており、臨床的に解決すべき問題となっている。本研究課題では、自然免疫応答がGISの病態形成に関与する可能性を追究するため、自然免疫受容体ファミリー分子であるToll-like receptor(TLR)の遺伝子欠損マウスのGISに対する感受性を調べた。TLR遺伝子欠損マウスのうち、TLR3遺伝子欠損マウスは10 Gyのガンマ線全身照射に対して強い耐性を示し、下痢や体重減少などのGISの症状が極めて軽度であることを明らかにした。TLR3遺伝子欠損マウスでは、放射線被曝後の小腸陰窩の上皮細胞死が著減しており、上皮構造の破綻に至らなかった。小腸陰窩の上皮細胞はTLR3を強く発現しており、リガンド刺激で直接的に細胞死することを示した。TLR3は情報伝達分子としてTRIFとRIP1を介して小腸陰窩の細胞死を誘導しうることを示した。癌抑制遺伝子p53は、放射線によるDNA損傷が修復不可能な場合に細胞死を誘導する主要な因子としてよく知られているが、TLR3とp53は互いの発現や機能に関与しなかった。放射線照射後にTLR3依存的細胞死を誘導するリガンドは、p53依存的に細胞死した際に漏出する自己のRNAであることを示した。さらに、TLR3-RNA結合阻害剤をマウスに投与すると放射線被曝後の小腸陰窩の細胞死が減少し、GISが軽減することを示した。以上のように、GISの病態成立にTLR3が大きく関与することを明らかし、さらには薬物によるTLR3の阻害がGISを予防・治療する有効な手段となりうることを示した。これらに関して国内外の学会ならびに学術誌において研究報告を行った。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

本研究課題では、平成25年度の研究計画として、(1)放射線被爆後にTLR3がもたらす傷害、(2)傷害に寄与するTLR3陽性細胞を明らかにすることとした。また平成26年度の研究計画として、(3)TLR3が誘導する下流の情報伝達機構、(4)TLR3欠損によるp53の機能への影響、(5)TLR3を刺激するリガンドを明らかにすることとした。研究代表者は上記の計画を平成25年度のうちにすべて達成し、詳しくは(1、2)TLR3は小腸陰窩の上皮細胞に強く発現しており、放射線被爆後に細胞死を誘導すること、(3)TLR3はTRIFとRIP1を介して細胞死を誘導しうること、(4)TLR3はp53の発現や機能に影響しないこと、(5)p53依存的に細胞死した際に漏出する自己のRNAがTLR3を刺激しうることを明らかにした。さらに、TLR3-RNA結合阻害剤がGISの症状を顕著に改善することも示した。この知見に基づき、Nature communicationsに論文発表するとともに、特許の出願を行った。平成26年度には、これらの成果を国内外の学会で研究報告するとともに、国内の学術誌に総説を寄稿した。さらに、GISに関する研究で得られた知見・実験技術をもとに、小腸以外での急性消化管粘膜傷害についての解析、あるいは晩期消化管障害についての解析へも研究を発展させ、得られた研究成果について学会報告を始めている。以上のように、申請時の計画以上に研究は進展している。

今後の研究の推進方策

GISに関して、TLR3阻害剤がマウスにおいて有効であることを明らかにした。現在、国際特許の出願を行っている。ヒトにおいては原子力発電所の事故、テロなどで被曝した患者のための治療法として重要と考えられる。また、放射線治療の際の副作用の軽減においても有効であると考えられる。現在、カナダのベンチャー企業とともにヒトTLR3阻害剤のスクリーニングを行っており、将来的に製剤化、臨床応用を目指していく予定である。さらに、頭頚部の悪性腫療に対しての放射線療法の際にも口腔にて急性粘膜傷害が起きることが知られているが、このものについても特定の自然免疫機能を欠損したマウスで病状が改善することを見出しており、今後詳しく解析していく。
また、急性期での粘膜傷害の後には、慢性炎症を伴う進行性の腸炎へと発展し、狭窄、流通障害、線維化などの難治性の晩期障害を引き起こす場合があり、癌患者のクオリティ・オブ・ライフを著しく低下させている。研究代表者は放射線性腸線維症のマウスモデルを作成し、その解析を通じて特定の自然免疫細胞が病態成立に深く関与していることを見出している。上記の急性放射線性消化管障害に加えて、晩期障害における自然免疫機能の役割を明らかにするものとして、同時に解析を進めていく。

次年度使用額が生じた理由

実験計画が順調に進み、TLR3阻害剤がGISの新たな予防・治療手段となりうることが分かった。これまでに続き、次年度もヒトTLR3阻害剤開発の研究を進めるために、有効性試験を行う必要がある。また、GISに加えて口腔粘膜での急性放射線性傷害、さらには晩期の放射線性腸線維症の病態発現に自然免疫機能の関与が必須であることを見出しており、その詳しい解析を通じた新規治療手段の開発のために、さらなる研究が必要である。そのために、今年度の予算を来年度に持ち越すことにした。

次年度使用額の使用計画

上記試験のために、主に試薬、培養のための培養液、マウス購入、飼育代として使用する。

  • 研究成果

    (11件)

すべて 2015 2014 その他

すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] 急性放射線性消化管症候群におけるToll様受容体の役割2015

    • 著者名/発表者名
      武村 直紀, 植松 智
    • 雑誌名

      放射線生物研究

      巻: 50 ページ: 84~97

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Toll様受容体と急性放射線性消化管症候群2015

    • 著者名/発表者名
      武村 直紀, 植松 智
    • 雑誌名

      医学のあゆみ

      巻: 253 ページ: -

  • [雑誌論文] 放射線誘導性小腸上皮傷害におけるTLR3の役割2015

    • 著者名/発表者名
      武村 直紀, 植松 智
    • 雑誌名

      臨床免疫・アレルギー科

      巻: 64 ページ: -

  • [雑誌論文] Gastric emptying is involved in Lactobacillus colonisation in mouse stomach2014

    • 著者名/発表者名
      Sahasakul Y, Takemura N, Sonoyama K.
    • 雑誌名

      Br J Nutr

      巻: 112 ページ: 408~415

    • DOI

      10.1017/S0007114514000968.

    • 査読あり / 謝辞記載あり
  • [雑誌論文] TLR3を介した放射線誘導性腸上皮傷害機構2014

    • 著者名/発表者名
      武村 直紀, 植松 智
    • 雑誌名

      Isotope News

      巻: 727 ページ: 2~8

  • [雑誌論文] 放射線誘導性腸上皮傷害における増悪因子としてのTLR3の役割2014

    • 著者名/発表者名
      武村 直紀, 植松 智
    • 雑誌名

      日本インターフェロン・サイトカイン学会ニュースレター

      巻: 38 ページ: 19-30

  • [学会発表] Innate immune responses in radiation-induced intestinal injury2015

    • 著者名/発表者名
      Naoki Takemura
    • 学会等名
      The 15th International Congress of Radiation Research
    • 発表場所
      京都府、京都市
    • 年月日
      2015-05-25 – 2015-05-29
    • 招待講演
  • [学会発表] Blockade of TLR3 protects mice from lethal radiation-induced gastrointestinal syndrome2015

    • 著者名/発表者名
      Naoki Takemura, Satoshi Uematsu
    • 学会等名
      2015 Keystone Symposia Conference C1
    • 発表場所
      Keystone, USA
    • 年月日
      2015-03-01 – 2015-03-06
  • [学会発表] Resident myofibroblasts and eosinophils mediate radiation-induced intestinal fibrosis2014

    • 著者名/発表者名
      Naoki Takemura, Kouta Matsunaga, Satoshi Uematsu
    • 学会等名
      The 43rd Annual Meeting of the Japanese Society for Immunology
    • 発表場所
      京都府、京都市
    • 年月日
      2014-12-10 – 2014-12-12
  • [学会発表] Blockade of TLR3 protects mice from lethal radiation-induced gastrointestinal syndrome2014

    • 著者名/発表者名
      Naoki Takemura, Satoshi Uematsu
    • 学会等名
      The 13th Awaji International Forum on Infection and Immunity
    • 発表場所
      奈良県、奈良市
    • 年月日
      2014-09-23 – 2014-09-26
  • [備考] TLR3の阻害が致死的な放射線誘導性腸炎を著しく改善させる

    • URL

      http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/research/papers/tlr3.php

URL: 

公開日: 2016-06-01  

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