急性放射線性消化管症候群(gastrointestinal syndrome; GIS)は、高線量の電離放射線に被曝した場合に、小腸陰窩の上皮幹細胞が死滅して上皮構造が破綻し、下痢や腸炎が起こる急性疾患である。日常においては、骨盤腔内の悪性腫瘍に対して広範囲の放射線照射が施行される際に同様の腸炎が起きることが知られており、臨床的に解決すべき問題となっている。本研究課題では、自然免疫応答がGISの病態形成に関与する可能性を追究するため、自然免疫受容体ファミリー分子であるToll-like receptor(TLR)の遺伝子欠損マウスのGISに対する感受性を調べた。TLR遺伝子欠損マウスのうち、TLR3遺伝子欠損マウスは10 Gyのガンマ線全身照射に対して強い耐性を示し、下痢や体重減少などのGISの症状が極めて軽度であることを明らかにした。TLR3遺伝子欠損マウスでは、放射線被曝後の小腸陰窩の上皮細胞死が著減しており、上皮構造の破綻に至らなかった。小腸陰窩の上皮細胞はTLR3を強く発現しており、リガンド刺激で直接的に細胞死することを示した。TLR3は情報伝達分子としてTRIFとRIP1を介して小腸陰窩の細胞死を誘導しうることを示した。癌抑制遺伝子p53は、放射線によるDNA損傷が修復不可能な場合に細胞死を誘導する主要な因子としてよく知られているが、TLR3とp53は互いの発現や機能に関与しなかった。放射線照射後にTLR3依存的細胞死を誘導するリガンドは、p53依存的に細胞死した際に漏出する自己のRNAであることを示した。さらに、TLR3-RNA結合阻害剤をマウスに投与すると放射線被曝後の小腸陰窩の細胞死が減少し、GISが軽減することを示した。以上のように、GISの病態成立にTLR3が大きく関与することを明らかし、さらには薬物によるTLR3の阻害がGISを予防・治療する有効な手段となりうることを示した。これらに関して国内外の学会ならびに学術誌において研究報告を行った。
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