原子核構造研究の有力な手法として、原子核殻模型計算が知られている。中重核領域での低励起エネルギースペクトルや、軽い核の第一原理計算に用いられるが 、取り扱うべきヒルベルト空間の巨大さが常に障害となってきた。この障害を克服するため、原子核殻模型計算の大規模並列計算機むけプログラム開発をおこなった。このプログラムは「KSHELL」と名付けられ、インテーネットにて広く公開され、理論・実験双方の研究者に利用されている。研究者にむけたKSHELLコードの利用講習や、問い合わせへの対応を随時おこなっている。 特に平成28年度は、2核子移行反応の記述に重要な2核子分光学的因子の計算を可能とするような機能拡張をおこなった。並行してOakforest-PACSへの移植とテストをおこなった。また、得られた各固有状態ごとに、粒子ーホール励起がどのくらい含まれているかなど、波動関数の詳細な情報を表示するコードを追加した。対話型インターフェースの改良もおこなった。 さらに、大規模並列計算機を用いる上で各ノードごとのメモリー使用量を大幅に節減する機能の開発・実装をおこなった。この開発の結果、752億次元という巨大な次元の疎行列の対角化計算を達成した。これは世界最大規模の殻模型計算である。このプログラムにより殻模型計算の適用領域を大きく広げ、中性子過剰マグネシウム同位体近傍の「反転の島」領域の記述につながった。 二重ガモフテラー遷移の計算も可能にするようコード開発をおこない、カルシウム48の二重ガモフテラー巨大共鳴や、和則、ニュートリノレス二重ベータ崩壊核行列要素との関係を研究した。
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