研究課題/領域番号 |
25870169
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
望月 維人 青山学院大学, 理工学部, 准教授 (80450419)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | エレクトロマグノン / 磁性強誘電体 / 電気磁気結合 / スキルミオン / マイクロ波素子 / カイラル磁性体 / マルチフェロイックス |
研究実績の概要 |
本研究は、様々な磁性強誘電体においてレーザー光やマイクロ波の振動電場成分と誘電分極の相互作用を通じて励起される「電場誘起マグノン(エレクトロマグノン)」に由来する、新しい物性現象や物質機能の発見を目的としている。本年度は、昨年度に引き続き、空間反転対称性の破れたキラルな結晶構造を持つ磁性絶縁体において、磁気強誘電性を示すスキルミオンやスパイラル磁性、強制強磁性相などの磁気テクスチャで実現するエレクトロマグノン励起に由来する物質機能や物性現象の探索に取り組んだ。その結果、キラル絶縁磁性体Cu2OSeO3おいて、エレクトロマグノン励起の二種類の励起チャネル(電場励起と磁場励起)の干渉効果に由来する「マイクロ波ダイオード効果」を、昨年度に発見したマイクロ波偏光配置とは異なる条件で、またより巨大な効果として発見した。この成果を論文にまとめて、投稿した。また、ハンガリー、ドイツ、スイスの複数の実験グループと連携して、このようなマイクロ波周波数領域でエレクトロマグノン励起を示す新奇物質の探索に取り組んだ。対称性の議論から「結晶構造がCnvの点群に属する絶縁磁性体」が有望な物質の候補であることを見出し、そのような化合物中心に調べた結果、世界で2例目となる磁気強誘電性を示すスキルミオン相を発現する物質を発見した。この物質の磁性と強誘電性を記述する微視的な数理モデルを構築し、モンテカルロ法による数値計算で解析することで、この物質が示す磁気強誘電相図と磁気構造を余すところなく解明した。この研究成果を共同で論文にまとめ、投稿した。また、伝統ある磁性の国際会議(MMM2014)や強相関電子系の大きな国際会議(SCES2013)を始め、いくつかの国内・外の会議で招待講演を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画では、エレクトロマグノン励起に由来するこれまでにない物性現象・物質機能を探索することを目標としていた。実際に、典型的なトポロジカル磁気構造を基盤とする新奇な磁性強誘電体であるカイラル絶縁磁性体(Cu2OSeO3)において、空間反転対称性の破れに由来するDzyaloshinnskii-守谷相互作用によって長周期の変調を獲得した磁気秩序相が、これまでに報告例がないほど巨大なマイクロ波周波数領域の磁気カイラル二色性を示すことを理論的に予言し、成果を論文にまとめた。さらに、この予言結果を検証すべく、実験グループと共同研究を行い、これを実証した。それのみならず、このような劇的なエレクトロマグノン励起由来の現象を引き起こす新たな候補物質の探索に乗り出し、ヨーロッパの幾つかの実験グループと共同研究を行った。理論的な提案を行うことで、実際に世界で2例目となる磁気スキルミオン相を示す絶縁磁性体(スキルミオニック磁性強誘電体)を発見した。また、この物質の磁気誘電相図の全貌と磁気秩序相の詳細を、微視的モデルの構築と解析により、あますところなく解明した。このことから、本研究は当初の研究計画を大幅に越えて進展していると結論づけた。
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今後の研究の推進方策 |
平成25・26年度の研究の成果として得られた「エレクトロマグノン励起や複合自由度の共鳴励起に関する新しい知見」を手掛かりに、磁気強誘電性を示す物質の励起現象に由来する新しい動的現象・が外場応答を理論的に探索・解明に取り組む。特に、昨年度に実験グループとの共同研究により発見した新しいスキルミオニック磁性強誘電体における、エレクトロマグノン励起の可能性と、励起が存在するならその発現機構の解明に取り組む。さらには、その励起が持つ非相反的な干渉効果を利用した新しい「光・マイクロ波機能」と、非線形強励起を利用した「マルチフェロイックトポロジカル磁気テクスチャの光・マイクロ波駆動・制御の方法」の探索・解明を目指す。また、このような現象を実現・観測する方法を理論的に設計する。具体的には、エレクトロマグノン励起が持つ複数の励起プロセスの干渉を実現するために、偏光配置や定常電場・磁場の印加条件を検討する。その配置と条件のもとで、LLG方程式の数値解析や量子数値シミュレーション、スピン波展開などの解析的手法により動的磁気感受率、動的誘電感受率、動的電気磁気感受率の計算を行う。その他にも、磁性強誘電体における電磁気学から「エレクトロマグノンの磁気光学理論」の定式化を行う。数値計算と解析理論を組み合わせることで、吸収係数や屈折率、旋光性の評価を行い、さまざまなエレクトロマグノン励起に由来する磁気光学現象を理論的に探索する。
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