本研究課題は非定常な環境における遺伝子発現系の影響を,統計的手法によって明らかにするものである.生命現象は細胞という非常に小さい系で反応が起こるため,ゆらぎの影響は不可避なものである.そのため,生物は長い進化の過程でゆらぎに対する耐性や,ゆらぎを利用する機構を獲得してきたと考えられる.平成25年度の研究では概日時計がどのようにゆらぎに対するロバスト性と外界の信号に対する感度を両立しているかを明らかにした.平成26年度の研究では,この研究をさらに発展させ,概日時計の分子メカニズムの最適性に焦点を当て,どのような概日時計を設計すれば最適な構造になるかについて研究を行った.さらに平成27年度の研究では確率微分方程式の新たな数値解法を開発した.生物の確率的な振る舞いを記述するには確率過程によるモデル化が行われる.特に確率微分方程式はモデル化に頻繁に用いられるが,その解は簡単な場合を除いて求めることが非常に難しい.平成27年度の研究では数値的に効率的に計算する方法を考案し,この成果を査読付き論文誌(Physical Review E)に発表した.
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