研究課題/領域番号 |
25870173
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
有賀 隆行 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 特任准教授 (30452262)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 1分子計測・操作 / 生体物質の物理 / 非平衡物理学 / エネルギー変換 / 生体分子モーター |
研究実績の概要 |
生体内では、様々な生体機械がエネルギー変換装置として働いている。これまでの研究では、主としてATP加水分解の化学ポテンシャルを力学的な仕事に変換する分子モーター(キネシン等)を題材に、分子の機能に着目した観察研究が主流であった。しかし、そのメカニズムの理解の急速な発展と比較して “エネルギー変換”としての物理的側面に関しては理解が遅れているのが現状であった。本研究では、非平衡系で成り立つ最新の理論を利用した一分子キネシンのエネルギー変換効率の定量的な計測を通じて、生体分子という“物の理”を理解すると共に、現在急速に発展しつつある非平衡物理学の基礎となるデータを提供することを目的として研究を行っている。 これまでに、1分子の野生型キネシンについて、入力となる自由エネルギー(化学ポテンシャル)変化を制御しながらフィードバック制御を備えた光ピンセット顕微鏡法により、外力と速度の関係を計測し、準静的なエネルギー効率を定量した。次に、様々な外力の摂動を与えたときの応答と速度相関を計測し、新しい非平衡関係式と比較することで非平衡度に応じた比熱的な散逸の計測を行った。その結果、低周波数領域に於いて応答と速度相関にズレが見られ、揺動散逸定理の破れが観測された。本年度はその結果を定量的に解釈するため、シミュレーションを行った。シミュレーションは実験結果をほぼ再現するものであったが、キネシンの茎部に由来する緩和挙動が実験結果の解釈を難しくしていることも判った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
交付申請書に記載した本年度の研究実施計画のうち、計測機器の開発や改良を通じて分子モーターキネシンの野生型についてのエネルギー変換の定量、および非平衡散逸の計測の両者に於いていくつかの計測データが得られ、結果の解釈を行う事が可能となった。しかし、その解釈を巡っては新しい非平衡関係式を定式化した理論家の間でも意見が分かれ、一筋縄ではいかない状態となり、計画を変更してシミュレーションを行うことになった。シミュレーションについては概ね良好な結果が得られたが、その結果、計画外のシミュレーションを行った分だけ実験・計測の進みが滞り、研究期間を延長してデータ収集と論文執筆を行うこととなった。
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今後の研究の推進方策 |
前述のとおり、野生型キネシンのエネルギー変換効率および非平衡散逸の定量については予備的な結果が得られ、その解釈のためシミュレーションとの比較を行った。しかしながら、一分子の研究では一度の計測でアンサンブル平均をとることができないため、成果として発表するまでには、このデータを統計的に解釈できるだけの数を集めることが必要となる。実験、および、シミュレーションの結果に基いて理論の研究家と議論を続けながら、実験データを増やしてまとめる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は本来、研究計画に予定されていたキネシンの摂動応答計測における計測精度を向上させるための設備備品費として計上しており、その機器の選定と見積もり請求・評価などを行っていた。しかしながら、国外の機器購入に当たり国内代理店として指定されていた業者とやりとりを続けていたにもかかわらず、その業者からの応答が途絶えてしまい、機器選定が白紙に戻るというトラブルが起こって購入できない事態に陥ってしまっていた。また、本年度は、得られた予備的な結果を元に、計画を変更して主としてシミュレーション研究を行っていたため、実験設備および実験用試料として用意してあった経費を使い切ることができなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
当初の計画のとおり、キネシンの摂動応答計測における計測精度を向上させるための設備備品費、実験試料費、および発表用経費として利用する計画である。
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