研究課題/領域番号 |
25870174
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
豊川 智之 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (40345046)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ABM / GIS / 医師供給数 / 医療へのアクセス / 医師分布 |
研究概要 |
本研究の主たる目的は、医師の行動特性に着目したAgent Based Modeling(ABM) によるシミュレーションモデルを構築し、医師の行動理論の検証を行い、将来必要医師数を推定を試みることである。まず、同モデルについて文献学的検討を行い、社会学、経済学、生態学、都市工学、人口学など多岐に渡り使用され、ABMとネットワークモデリングとの融合モデルも広まりつつあることがわかった。GIS上のABMに関しては、土地利用の推定に関するシミュレーションや、湖辺縁の人口移動シミュレーションが、実際の人口移動と近い結果になった研究報告があり、本研究の道標として有効なものがあった。 ABMの構築、およびGIS活用のためのプログラミング技術習得および文献学的資料の入手のため、米国・ミシガン大学での夏期講座を受講した。同大のABMを用いた研究者との接触も計り、ABM-GISモデルの構築方法に関する情報収集をすることができた。ABMモデルは、オブジェクト指向モデリングを基本とし、Java言語を用いて同プラットフォームEclipse上で行うこととした。ABMを構築するための追加アプリとしてRePastを用いた。Eclicpse/RePast環境は、NetLogoやSwarmなどの専用ソフトウェアと異なり、モデル構築を基礎から作り上げるため難易度が高いが、GISソフトウェアであるArcGISとそのABM拡張アプリAgent Analystとの連携性に優れることがわかった。作成したABMモデルは、3ファイルからなり、初期設定できるパラメータとして、仮想空間の広さ、人口分布様態、医師の初期配置様態、専門家選択の有無(2つまで)、医師の引退までの年数、医師の人口分布確認可能範囲、医師の診療所設置選択基準値の設定、医師供給数と供給間隔を設定した。実際の医師分布の状態を入手し、GIS上で評価を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
文献学的調査を終えることができた。次に、医師の診療所開設に関するパラメータ調査は、調査会社の業務変更に伴い実施不能になったが、必要な情報は医師に対する面接調査と文献学的調査により入手することができた。ABMシミュレーションモデルの構築は予定通り進捗している。GIS上の地理情報データのためのメッシュデータを収集した。また、医師分布については、GIS上のメッシュデータを作成するために必要なデータを入手することができた。調査方法の変更はあったものの、予定していた計画は達成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
初年度で作成したABMシミュレーションをGIS上に拡張する。その際にArcGISのAgent Analyst を用いる。その上で、最終年度のまとめとして、医師の地理的分布に関する行動特性仮説を診療所解説の点から検証するとともに、必要医師数の推定の新しい方法について検討する。 医師の診療所開設選択に関する主たる医療経済学的仮説の一つにNewhouseのロケーションセオリーがある。これは医師が競争原理に基づいて行動するものとし、医師数の増加に伴い、人口の需要に対して医師が飽和すると医師が不足する診療科や地域に拡散し、医師不足の縮小が観察されることが期待される。しかし、申請者を含む複数の研究で、医科医師は増加しているにもかかわらず偏在縮小は確認されなかったことが報告されている。ロケーションセオリーの対立仮説であるターゲットセオリーとは、医科医師は、効用値において目標となる閾値が存在するというものである。ABMモデルで設定したパラメータにより、医師の診療所地域選択が、ロケーションセオリーに従った場合と、ターゲットセオリーに従った場合をシミュレーションできる。これと実際の医師分布から得られた現状評価とを照らし合わせることで、どちらのセオリーが適合するかを検証する。 次に将来医師数の推定を試みる。従来の医師数予測で用いられている線形モデルは、これまでの推移をもとに行われる。しかし、医師の継続的な増加と加齢、人口の少子高齢化や都市集中、医師供給政策の変化や規制の導入など、これまでにはなかった条件下では、線形モデルの予測能は低下する。これまでに報告されている将来医師必要数との比較を通じて、ABMによる予測可能性について検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
医師調査方法が、調査会社の業務変更に伴いインターネット調査遂行不能となり、調査方法が変更されたことが主な理由である。 差額は微小であり、追加の文献調査が必要であることから、十分に消費可能である。
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