研究実績の概要 |
今年度は塩を含む水溶液を出発物質としたアモルファス氷について、以下の成果を得た。 (1) 新規塩化マグネシウム水和物の発見とその構造解析 塩化マグネシウム水和物は,化学式MgCl2nH2Oで表され,これまでn = 1, 2, 4, 6, 8, 12の少なくとも6相が存在することが知られていた。このような塩水和物は高圧下でさらに多くの相を持つ可能性があるが,その結晶学的研究はあまり進んでいない。その理由はおそらく,塩水和物の高圧相が,良質な単結晶にも良質な粉末にもどちらにもなりにくいためであろう。塩水和物高圧相ができる過程で氷の高圧相が析出することも多く,析出した氷高圧相もやはり良質な単結晶/粉末のいずれでもないことが多い。しかし申請者らは,試料を一度急冷してアモルファス化させ,さらに低温のまま目的の圧力まで加圧して,その後昇温することで結晶化させる,という手法をとることで,新規塩化マグネシウム水和物の良質な粉末試料を得ることに成功し、粉末X線・中性子その場回折実験を行うことでその構造解析にも成功した。 (2) 塩を含む秩序氷の発見 塩化マグネシウム水溶液を急冷し、ガラス化させ、低温下で加圧した後に昇温すると、塩を含む氷VII相が出現することが、前年度までの実験で明らかになっていた。今年度は、さらに、このようにして得られた氷VII相を再び低温に晒すことで、塩を含む氷VIII相が出現することを明らかにした。塩を含む氷の秩序相は初めての発見であり、なぜ不純物を含みつつ水素結合ネットワークを作ることができるのか、という新たな問題を提起した。
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