研究課題/領域番号 |
25870185
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
尾崎 和海 東京大学, 大気海洋研究所, 研究員 (10644411)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 原生代 / 生物地球化学 / 大気海洋化学組成 / 物質循環モデル |
研究概要 |
本研究は、原生代の大気海洋の化学組成とその安定性・変動性を物質循環モデルを用いて明らかにすることを目的としている.本年度は、原生代の海洋環境へと適用可能な海洋物質循環モデルの開発・適用を行い、当時の海洋化学環境を制約することを目指して研究を進めた. 開発された海洋生物化学循環モデルは、研究代表者がこれまでに開発を行ってきた数値モデルをベースとするものである.本年度は、硫黄の河川を通した流入や堆積場への除去プロセス、及びメタンに関する反応過程(メタン生成や好気的・嫌気的メタン酸化)を導入し、これによって原生代の海洋化学環境を定量的に評価することが可能な唯一の数理モデルを開発することに成功した. 近年の地球化学的分析結果に基づけば、原生代海洋はそれ以降の時代に比べて極端に硫酸イオンに乏しく、硫化水素を高濃度に含む海水(ユーキシニア)が一部の沿岸域や湧昇域に限られていたことが明らかとなりつつある.大気中酸素濃度、陸上風化率、パイライトの生成効率についての系統的な数値実験を行った結果、大規模なユーキシニアは非常に限られた物理条件下においてのみ実現することが明らかになった.この結果は、近年の地球化学分析に基づいて推測された海洋環境が長期にわたって実現していた必然的理由を、生物地球化学的物質循環に基づいた理論的見地から解明したものである. また、大規模なユーキシニアは、富酸素な大気海洋系が還元的条件へと移行する際の数千万年間に限って実現されることを見出した.この現象("Euxinia Overshoot")は古原生代中期(約20億年前)の地質記録(モリブデン同位体比、硫黄同位体比、大規模リン鉱床)を整合的に説明可能であり、古原生代初期に起こった大気海洋系の酸化イベント後に大気海洋系が貧・無酸素化した可能性を示唆している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
原生代の海洋環境へと適用可能な数理モデルの開発は順調に行われた.海洋内部で生じる種々の生化学反応を計算しつつ、長期積分するために必要な計算スキームの導入が無事に達成されている.この数値モデルを適用することで原生代の海洋化学組成について系統的な感度実験を行うことが可能となった.これにより原生代海洋環境について新たな知見を得ることに成功しており、おおむね順調に進展しているものと判断される. 有光層アノキシア条件下にある海洋生態系のモデル化についても研究を実施している.現時点までに高解像度化を達成し、黒海などの海洋化学分布を復元することが可能となったが、有光層内部の生態系のモデル化と海洋モデルとの結合が残された課題となっている.
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今後の研究の推進方策 |
今後は、有光層内部の生態系・化学種分布を検討するための数理モデルの開発を順次行っていく.
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次年度の研究費の使用計画 |
当初見込んでいた論文投稿費用が今年度においては未使用となったため. 次年度使用額分は現在投稿段階にある学術論文を投稿・出版する際の費用として使用する予定である.それ以外の使用については、翌年度使用計画に沿って支出する.
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