本研究の目的は、中国大興安嶺の森林地帯でトナカイ飼育を続けるエヴェンキ族らを対象に、彼らが現在でもトナカイ飼育ができる要因を明らかにするものである。彼らは、かつて狩猟、漁撈、交通手段としてのトナカイの飼育という、いわゆる「北方の三位一体」の生業活動をおこなっていた。しかし、2003年以降、彼らは地方政府による生態移民政策の影響で狩猟や漁撈を止め、トナカイ角の生産に専業化するようになった。こうしたなか、彼らは既往の技術を援用することでトナカイを飼育していることが分かった。彼らが既往技術で対応できたのは、郷政府からの支援があったからであり、その背景には郷政府が進める観光開発があるからである。
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