研究課題/領域番号 |
25870189
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
尾崎 信 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70568849)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 津波 / 東日本大震災 / 集落 / 神社 / 南海地震 |
研究概要 |
本研究は,災害常襲地の集落構造について調査・分析を行うことで,常襲する災害に対してとられてきたと考えられる集落空間上の知恵を読み解くことを第一の目的としている.また,集落構造を読み解くためのインデックスとして集落神社に着眼し,その立地特性や被災状況等について調査・分析を行うという手法をとる.申請時に立てた計画では,平成25年度には三陸地方を対象に地理的スタディ,歴史分析,現地調査,統計分析・考察を行い,その成果を整理することとしていた. 現在,概ね計画通りに進捗しており,平成25年度の実施内容・成果について簡単に整理すると次のようになる.まず,三陸地方沿岸の神社を対象とした地理的スタディ,現地調査の結果として,2011年東日本大震災の津波による神社の被災状況データを取得(のべ6回調査・既往成果と併せて累計443社)した.また,三陸地方沿岸集落を襲った既往津波(特に1896明治三陸津浪,1933昭和三陸津浪,1960チリ地震津波)に関する歴史的な文献調査を行い,その概要を整理した.これらを基にデータ整理を行い,大槌町・女川町で全壊・流失する神社の割合が高く,大船渡市で極めて低い傾向が明らかになった.また,岩手県神社庁の管理する神社については,社格が高いほど全壊・流失の割合が低いことが明らかになった.これらの傾向が集落構造に起因し,集落構造は地形的制約に影響を受けるという仮説に対して未だ明確な結論は出ていないものの,現在,湾形・集落地形等に関する類型化・分析を進めており,6月までには分析が完了する見込みである. 今年度,これらの分析を進め,遅くとも10月までには論文として成果を公表する手続きに入る.また,三陸地方での分析成果に基づいて,残りの対象地である仙台平野・南海地方の調査へと進む予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の目的の達成度は50%程度である.研究計画に沿って概ね順調に進展している.平成25年度の成果としては,当初計画していた三陸地方の地理的スタディ.歴史分析,現地調査,統計分析考察が概ね完了し,成果について考察を深めている段階にある.また平成26年度に行う予定であった南海地方の現地確認を一度行い,東北地方の集住地との相違点について考察を行った.詳細な調査は予定通り今年度行う予定である. 平成26年度4月現在では,予定していた仙台平野の調査・分析にはまだ入れておらず,その点が若干遅れているものの,同4月-7月に予定している東北地方の成果執筆に優先的に取り組んでいる.この理由は二点ある.一点目は,申請時に想定していた分析方法をより深める方向に転換したためである.当初は「集落の静的な分析」,すなわち,ある時間断面における集落構造を対象として分析を行う想定であったが,既往津波によって集落が非常に動的に変化(街路骨格の抜本変更,集落自体の移転など)しているために,それらの軌跡を踏まえた「動的な」集落構造分析を行っている.この際,津波災害の履歴に関する文献・先行研究が膨大にあり,それらのレビューに当初計画以上に時間をかけた.二点目は,現時点までの成果を博士論文としてとりまとめ,早い段階で広く公表することを重視したためである.
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今後の研究の推進方策 |
申請書に記載した研究計画を若干変更する必要性がある. まず,平成26年度4月から7月までは成果執筆(および必要に応じて分析考察のやり直し)に専念し,研究の質的な向上を図る.そこで得られた知見を基に,8月から11月で仙台平野・南海地方を対象に調査項目を絞り込んだ効率的な調査分析を行う.また,並行して10月までには研究成果発表の手続きに入る.
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次年度の研究費の使用計画 |
主に旅費・人件費が計画よりかなり少ない支出となったために次年度使用額が生じている.現地調査は申請者ともう一人の計2人で調査を進める計画を立てていた.しかし,実際はスケジュール調整が困難であり,一方で現地でのデータ取得を急ぐ事情もあり,申請者一人で調査を行うことが多かった.なお,効率的な調査行程の採用,および日の出と共に調査を開始するなど,調査の密度を高めた結果でもある.また,現地調査の同伴者にデータ整理を依頼する計画であったが,同伴者はおらず,現地の状況を知らない者に依頼することは適さないと判断したため,申請者自らがデータ整理を行った.結果として人件費も大きく抑えられている. 当該年度の使用実績として,物品費が交付額を若干超えているが,これは申請時の積算を大きく減額されたという背景に加え,申請時に想定していた「集落の静的な分析」から,過去の津波によって移動した集落を追う「動的な分析」へと研究内容が深化したために,それに応じて文献の購入費が嵩んでいるという事情がある.さらには未だ南海地方の文献等をほとんど入手できておらず,今後支出が増える見込みである.また,次年度は南海地方の現地調査を予定しており,旅費も増額する見込みである(申請時の積算で1,050千円だが交付予定額は700千円). このような状況を勘案して,次年度使用額は文献資料購入費と旅費それぞれに150千円ずつ充て,研究の充実を図る.
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