研究課題
本研究は光触媒のモデル系である酸化物・金属界面における光励起キャリアのダイナミクスを、時間分解軟X線光電子分光法の元素選択性を活かしサイト選択的に観測することを目的とする。具体的には半導体を光励起した際におきる表面光起電力(Surface Photovoltage(SPV))効果の緩和過程を内殻準位の光電子スペクトルを用いてリアルタイムで観測し、酸化物表面における光励起キャリア緩和時間を明らかにする。酸化物基板の内殻準位及び担持した金属微粒子の内殻準位、それぞれの時間変化を観測することでサイト選択的なキャリアダイナミクスを解明することを目指している。研究開始年度の平成25年度に、SrTiO3清浄面にレーザー照射を行うと、Sr3d内殻光電子ピークが低結合エネルギー側へシフトし、約1ナノ秒以下と非常に短い時間で緩和することを発見した。このSrTiO3(001)清浄面における非常に速い緩和は、その他の酸化物例えば約300ナノ秒の遅い緩和を示すZnOと大きく異なり、その原因が不明であった。研究開始2年目の平成26年度は、その原因を解明するためSPVを示さない金属表面において同じレーザー照射条件で対照実験を行ったところピークシフトが観測され、SrTiO3(001)清浄面におけるピークシフトはSPV効果ではなく、大強度ポンプレーザーによる光電子発生がプローブ放射光による光電子の運動エネルギーを変化させていること(space charge効果)が明らかになった。現在、ポンプレーザーの照射条件(特に、パルス巾とエネルギー)を最適化し、ポンプレーザーによる光電子発生が無い条件で、SPV効果を観測する準備を進めている。
2: おおむね順調に進展している
SrTiO3清浄表面において観測された約1ナノ秒以下と非常に短い時間で緩和する内殻ピークシフトの原因がspace charge効果であることを明らかにしたため、おおむね順調に進展している。
大強度ポンプレーザーによるspace charge効果の影響が明らかになったため、ポンプレーザーの照射条件(特に、パルス巾とエネルギー)を最適化し、ポンプレーザーによる光電子発生が無い条件で表面光起電力(SPV)効果を観測する準備を進めている。また、space charge効果を避けSPV効果を観測するためには、より効率的に光励起キャリアを生成する必要がある。バンドギャップが3.0 eVとSrTiO3(3.2 eV)よりも小さいルチル型TiO2を試料として使用する準備も進めている。光触媒における反応サイトとして重要な金属助触媒を真空中で担持するため金属蒸着源の作成を行い、本研究の目標である酸化物半導体・金属界面における光電子分光の元素選択性を活かしたサイト選択的な表面キャリアダイナミクスの観測を実現する。
本年度に当初予定していた励起光波長依存性を調べるためのレーザー用非線形結晶の購入を延期したため。
光励起キャリアの生成をより効率良く行うため、励起光の照射条件(特に、パルス巾とエネルギー)を最適化する必要がある。パルス巾整形装置の構築及びレーザー用非線形結晶の購入に予算を使用する予定である。実際の測定の効率化を図るために真空部品及びレーザー光学系を改善・修繕できるよう、これらの消耗品に予算を使用する予定である。また、得られた研究成果を国内外の学会で積極的に発表するため、旅費に予算を使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Applied Physics Letters
巻: 105 ページ: 151602
10.1063/1.4897934
日本放射光学会誌「放射光」
巻: 27 ページ: 241-252
http://www.issp.u-tokyo.ac.jp/labs/sor/s-yamamoto/