本研究は光触媒のモデル系である酸化物・金属界面における光励起キャリアのダイナミクスを、SPring-8 BL07LSUにおいて開発したピコ秒時間分解軟X線光電子分光法の元素選択性を活かしサイト選択的に観測することを目的とする。光励起キャリアにより半導体表面のポテンシャルが変化する現象は表面光起電力(Surface Photovoltage(SPV))効果と呼ばれ、光電子分光により内殻準位のピークシフトとして観測することができる。酸化物基板の内殻準位及び担持した金属微粒子の内殻準位、それぞれの時間変化を観測することでサイト選択的なキャリアダイナミクスを解明することを目指している。
本研究課題では、当初SrTiO3(001)清浄面を研究対象としたが、実験で行ったレーザー照射条件内ではSPV効果は観測されず、大強度ポンプレーザーによる光電子発生がプローブ放射光による光電子の運動エネルギーを変化させる空間電荷(Space charge(SC))効果が観測された。SrTiO3清浄面ではSPV効果とSC効果によるピークシフトが同方向になるため、区別が容易でない問題があった。そのため、SPV効果とSC効果によるピークシフトが逆方向になり、両者の区別がより容易なZn(0001) 清浄面及びPtを蒸着したPt/Zn(0001)面へ研究を展開した。ZnO(0001)清浄面では数十ナノ秒の光励起キャリア寿命がPtの蒸着により1ナノ秒以下に短縮される事が分かった。光励起キャリアの短寿命化は、Pt蒸着により光励起キャリアの再結合中心が増加したためと考えられる。また、ZnO基板のZn3d準位のピークシフトは観測されたが、蒸着したPt由来のPt4f準位にはピークシフトは観測されなかった。この結果はPt4f準位の時間変化が放射光のパルス幅で決まる本実験の時間分解能(50ピコ秒)より速い可能性を示唆している。
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