研究課題/領域番号 |
25870197
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
長谷 武志 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 助教 (70569285)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 蛋白質ネットワーク / ネットワークバイオロジー / システムバイオロジー / 生命情報 / 機械学習 / 比較ゲノム / 薬剤標的分子 / ネットワーク進化 |
研究実績の概要 |
1.網羅的な、メチシリン耐性ブドウ球菌(MRSA)の蛋白質間相互作用ネットワーク(PIN)の情報は、薬剤標的分子の探索に利用されつつある。また、人の遺伝子と相同性のないMRSAの蛋白質は、薬剤標的にした場合に、副作用を及ぼす危険性が低いと考えられる。今回、MRASのPIN、MRSAの蛋白質の相同性の情報、および、MRSAの蛋白質の特徴量を入力データとした、薬剤標的分子の候補を推定する数理モデルの構築を行った。数理モデルは、代表的な10種の機械学習アルゴリズムを組み合わせて作成した。この数理モデルの予測精度を検証するために、既知の薬剤標的分子候補の幾つかをテストデータとして用いたところ、このモデルは高い予測精度を示した。また、この数理モデルにより新しい薬剤標的候補分子を推定し、候補分子のリストを作成した。このリストは、MRSAの新薬開発を効率よく進めるために役立つと期待される。この研究成果について、国際学会8th AYRCOBにおいて口頭発表を行った。 2.Controllabilityの手法は、PINのダイナミクスを制御するために重要な役割を果たす遺伝子(driver遺伝子)を同定できる。しかし、driver遺伝子と薬剤標的分子との関連性はよくわかっていない。今回、我々は、人のPINのdriver遺伝子について調査を行った。その結果、我々は、drive遺伝子の中でも、相互作用数の多いdriver遺伝子群は、有意に癌の薬剤標的分子とオーバーラップしていることを示した。この研究成果について、国際学会20th AROB 20th 2015において口頭発表を行った。 3.巨大なPINから多数の薬剤標的分子を含む小さなサブネットワークを抽出する方法について、論文を執筆し、Artificial Life and Robotics誌に発表した。 4.遺伝子重複に基づく進化モデルを構築した。また、シミュレーションにより、この進化モデルが5種の原核生物のPINの構造の類似性および違いを説明できることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の研究計画として、(1)薬剤標的分子を予測する数理モデルの予測精度の検証と改良、(2)(1)で開発した数理モデルにより十分高い予測精度が得られた場合に、予測された薬剤標的分子および疾患関連遺伝子のリストをデータベースとして公開する、(3)代表的な5種の原核生物のタンパク質間相互作用ネットワーク構造の類似性および違いを説明できる進化モデルの構築、の三点を挙げた。 この内、(1)については、一般化線形モデルだけでなく、サポートベクターマシン、neural network、multi-layer perceptronなどの代表的な機械学習の手法を複数組み合わせることにより、MRSAの薬剤標的分子を推定する数理モデルの予測精度を、飛躍的に高めることに成功した。この数理モデルに関して、現在論文を執筆中である。また、人のいくつかの疾患に対しても、薬剤標的分子を推定する数理モデルの構築を進めている。このモデルについても論文の執筆を行う。また、(2)については、予測した候補分子のリストを、執筆中の論文中の表、または、supplementary materialとしてまとめ、公開する予定である。 (3)に関しては、遺伝子重複に基づく進化モデルを構築し、コンピューターシミュレーションにより、このモデルが5種の原核生物のPINの構造の類似性と差異を説明できることを示した。この研究結果、および、昨年度の研究により得られた比較ゲノム解析の結果について、現在論文を執筆中である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、まず平成26年度に行った、MRSAの薬剤標的分子を予測する数理モデル、および、代表的な5種の原核生物のPIN構造の類似性および差異を説明する進化モデルについて、論文を執筆する。また、MRSA以外の病原生物の薬剤標的分子を予測する数理モデルについても研究を進める。 また、今年度は、人の疾患に対する薬剤標的分子を予測する数理モデルの構築を行う。対象疾患としては、パーキンソン病、アルツハイマー病、すい臓がんや肺がん等の各種の癌、および、リューマチ等を予定している。これらの数理モデルを構築する際には、パブリックドメインの各種薬剤投与下における遺伝子発現データ(Connectivity mapデータベース)の利用を予定している。また、これらの数理モデルの予測精度を検証するために、それぞれの疾患に対する既存の薬剤標的を、どの程度正確に予測できるかについて調査を行う。その結果を基にして、予測精度が向上するように、組み合わせる機械学習アルゴリズムの、取捨選択、重み付け、および、パラメターのチューニングを行う。構築した数理モデルについて、論文にまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
「次年度使用額」が約84万円あるが、これは、病原生物(MRSA)の薬剤標的分子を予測する数理モデル、および、原核生物のPINの進化モデルに関して、平成26年度に論文を2報出版し、海外の国際学会に参加し成果の発表を行う計画であったため計上したものである。しかしながら、論文をさらに改良する必要が生じたことと、日程の関係から予定していた国際学会に参加できなくなってしまったため、「次年度使用額」となった。
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次年度使用額の使用計画 |
「次年度使用分」については、平成26年度に出版できなかった論文を出版するための費用、その別刷りの購入費用、および、成果発表のための国際学会参加費用とする予定である。平成27年度は、大規模なデータ解析を行うためのスーパーコンピューターの使用料金を計上する。その他は、解析用ソフトウェア、英文校正費用、平成27年度出版する計画である論文の出版費用、および、その別刷り購入費用などである。
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