研究課題/領域番号 |
25870206
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
福島 康博 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 研究員 (20598908)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | イスラーム金融 / イスラーム法 / シャリーア / マレーシア |
研究実績の概要 |
マレーシアのイスラーム金融において、そのイスラーム性のあり方と形成過程とを明らかにすることを目的とする本研究課題のうち、平成26年度は前年度の調査・分析内容を踏まえつつ、以下の調査・分析を行った。 まず本研究課題の目的の一つである、マレーシアにおけるイスラームの社会経済的な位置づけとイスラーム金融との関係性を明らかにすることに主眼に置いた。近年のマレーシアでは、クランタン州におけるハッド刑の導入や、いわゆるイスラーム国(ISIS)への渡航者の発覚、およびハラール産業の興隆など、イスラームをめぐる諸現象の高まりが、ムスリム個々人の内面的信仰のみならず公共領域においても可視化される傾向が強まっている。これら現象に対してイスラーム金融は、ハラール産業に属する企業やシャリーア適格株式の認定を受けた企業に対する、直接・間接的な資金供給を行う役割を担うとともに、イスラームの価値観に基づくCSR活動を通じて社会貢献を行うなど、一定の関係性を構築している。これは、イスラーム金融が、国内のイスラーム化の高まりにおいて経済・金融分野での需要に応えているとみなすことができる。 平成26年度は、上記の内容と並行して、インドネシアのイスラーム金融に関する調査・分析を進めた。これは、マレーシアのイスラーム金融の固有性と普遍性を明らかにするため、インドネシアの事例を比較対象とするものである。平成26年度は文献調査のみであったが、金融商品やその背景にあるイスラームの考え方は両国で共通する一方、歴史や発展の経緯、市場構成と金融グループの構成などの点では、相違がみられた。 以上の調査・分析は、統計データ等の文献調査とともに、マレーシアとシンガポールでの現地調査に基づいた。また、上記の調査・分析結果は、5回の学会・研究会発表(うち1回はマレーシアで実施)と1本の研究論文(英文)にて公開した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題における研究の目的、すなわちイスラーム性の形成主体であるシャリーア・ボードの役割、およびマレーシアにおけるイスラームの社会経済的位置づけとイスラーム金融との関係の解明は、平成25-26年度で実施した調査・分析によって多くの部分が明らかになると同時に、これらを平成27年度の研究活動の土台とする。 まず第一の目的である、各イスラーム金融機関が設けているシャリーア・ボードに関する調査・分析であるが、各委員の経歴・職歴に関する調査・分析はすでに行っており、研究会等で発表を行っている。他方、このシャリーア・ボードを通じてのイスラーム性の形成とその過程であるが、その一部は文献調査等で詳らかにできてはいるものの、十分なものとはいえないため、平成27年度は聞き取り調査等に基づきこの点を解明することが中心となる。 他方、マレーシアの社会経済におけるイスラーム金融の位置づけについては、その概要はおおむね明らかにできたと考えられる。まず法律・経済政策については、平成25年(2013年)のイスラーム金融を含めた金融関連の大幅な法律改正が行われ、これについては研究・分析を行っている。また、独立以前から現代にかけての、マレー半島におけるマレー・ムスリムにとっての資金調達のあり方とイスラームの関係性や、ハラール産業の興隆やハッド刑導入など、近年のイスラーム化の傾向と国民統合におけるイスラーム金融の位置づけといった分析を、平成26年度中に実施し明らかにした。 以上、2年間の研究活動を踏まえた上で、いまだ明らかにできていない点の調査・分析を3年目に行うこととする。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の3年目である平成27年度は、過去2年間の調査ではいまだ明らかにできていない点について、調査・研究を行うこととする。具体的には、(1)各イスラーム金融機関のシャリーア・ボードに委員に関する調査・分析と、(2)マレーシアの比較対象であるインドネシアの調査・分析である。 まず(1)の各イスラーム金融機関のシャリーア・ボードの委員に関する調査・分析であるが、シャリーア・ボードとは、各イスラーム金融機関のイスラーム性の決定権を有する組織で、同組織の活動内容を明らかにすることは、イスラーム金融のイスラーム性を解明する上で重要である。過去2年間の調査によって、各社の委員の経歴等は判明しているため、アンケート調査による量的調査と、複数の委員に対し対面での聞き取り調査による質的調査を実施する。以上、二つの調査によって、シャリーア・ボードの役割を解明し、イスラーム金融のイスラームのあり方を明らかにする。 他方(2)のインドネシアのイスラーム金融に関する調査は、マレーシアのイスラーム金融の固有性と普遍性を明らかにするための比較対象として取り上げるものである。平成24年の研究計画作成時においては、治安悪化等でインドネシア(ジャカルタ首都圏)での現地調査が困難であると判断した際は、替わりにシンガポールを比較対象として取り上げるとしていたが、現状ではインドネシアでの現地調査が可能な状況にある。そこで、27年度は同国での調査を実施するとともに、その調査結果をマレーシアとの比較のために使用することとする。インドネシアのイスラーム金融に関する調査内容であるが、平成26年度に実施した統計データを基に、同国におけるイスラームのあり方とイスラーム金融の社会経済的役割を明らかにする。そして、インドネシアをマレーシアと比較することによって、マレーシアの特性を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度の直接経費のうち、所要額が800,776円であったのに対し、実支払額は762,414円で、差し引き38,362円の差額が発生した。当初予定では、物品購入において全額使用する予定であったが、割引などが発生し安く購入できたため、結果的に残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成26年度に発生した残額は、27年度の物品費に充てる。
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