シカ食害による下層植生の衰退が日本各地で大きな問題となっている。山地渓流域においてはシカによる河畔林植生の衰退が著しく、本来河畔林が河川生態系に果たしている機能が過剰なシカの採食圧によって改変されていることが懸念される。 本研究では、京都大学芦生研究林におけるシカによる河畔林の衰退が、渓流魚類の餌資源利用の観点からどのような影響を及ぼしているのかを調査してきた。調査地では、シカを集水域全体から排除したシカ排除区と、シカが侵入可能なシカ食害区それぞれに流れる渓流を対象としてサンプル採取を実施した。まず、河畔林群落構造の改変によって渓流へ供給される種子や昆虫類の量的・質的な変化が生じることを検証するために、河川への落下物についてはパントラップ、流下物についてはドリフトネットを用いて季節ごとに採取した。さらに渓流底生動物の定量採取、魚類胃内容物および筋肉組織の採取、魚類の潜在的な餌資源サンプルの採取も並行して行った。 得られたサンプルは、同定および炭素・窒素安定同位体比分析のための処理を施し、順次データ化を進めている。以上のデータを駆使することで、シカ食害区とシカ排除区の渓流に生息する魚類が採餌している餌資源内容を胃内容の直接観察だけでなく、安定同位体比から推定される各種餌資源の貢献度と組み合わせて理解することが可能となる。これにより、シカ食害が間接的に水域生態系に及ぼしている影響を魚類群集から把握し、野生動物管理に必要となる根拠を提示することが今後期待できる。
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